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柳の下の「はやぶさ」 ああ日本映画の衰退

(2012.02.03)  きょうは節分、明日は「立春」。気分も新たに、いつもの単館系映画館ではなく、久しく行っていないシネコンにでも行こうか、と思った。

 「はやぶさ遥かなる帰還」(瀧本智行監督、科学者役は渡辺謙、東映)

がまもなく公開されることを知った。2010年6月にさまざまなトラブルに見舞われながらも奇跡的に地球に戻ってきた日本の小惑星探査機の物語である。日本中がその壮絶な帰還にわいた。

 ところが、すでに、昨年10月に

 「はやぶさ HAYABUSA」(堤幸彦監督、科学者役は西田敏行)

が公開されたし、この3月には

 「おかえり、はやぶさ」(本木克英監督、科学者役は藤原竜也、松竹)

も公開されるという。

 科学者が主役の、しかも事実に基づいた映画が立て続けに配給されるなんて、日本では異例中の異例だろう。

 もっとも、本当の主役は科学者ではなく、はやぶさという探査機なのだが、これを競作というにはあまりにも、言ってはなんだが、見え見えの

 柳の下のなんとか

ではないか。

 当たると分かっているテーマに絞り、しかも低予算でしかつくれなくなった日本映画の衰退もここまで来たか、という印象だ。なんとか「制作委員会」という、その場その場の寄り合い所帯というか、無責任というか、なんだか実態不明な方式による映画づくりしかできなくなった日本映画界の悲しい現実を見ているようで、シネコン系映画館にはますます行く気がしなくなった。

 そんなにがにがしい思いでいたら、2月2日付毎日新聞夕刊コラム「シニア映画「歓」」 で筆者の野島孝一さんが、こうした〝競作〟について

 「日本映画は知恵がない」

と嘆いていた。そのとおりだろう。言葉はわるいが、貧すれば鈍するの典型例だ。

 それに比べると、実話を基にした

 米映画「アポロ13」(ロン・ハワード監督、船長役はトム・ハンクス、1995年)

は、実写と最先端CGを駆使した見事な人間ドラマに仕上がっていた。事実は小説よりも奇なりというのを地で行った映画だ。

 1970年、3度目の月面着陸を目指した米有人宇宙船アポロ13号が地球から月到着直前で爆発事故を起こた。2基の酸素タンクが二つともダメになりながらも、地球に生還する絶体絶命の人間ドラマだ。最難関の地球大気圏への再突入では、船長が筆算し、手書きの計算式チェックリスト(月面モジュールシステム稼動手順書 注記)で、しかも実行は手動で行うというドラマチックな出来事を見事に再現している。

 刻々と死が迫る中での行き詰るラストシーンは、今もブログ子は忘れられない。

 アポロ11号の人類初の月着陸の成功(1969年7月)も偉大だが、アポロ13号の奇跡の生還というアメリカの危機管理能力の高さ、科学技術水準のすごさをまざまざと見せ付けたという点では、アポロ13号の事故は、あまりにも偉大な失敗だった。

 映画制作にあたっては、実際に航空機で無重力状態をつくりだしたりしたという。こうしたことについては、

 『アポロ13号奇跡の生還』(H.クーパーjr.、立花隆訳、新潮文庫、1998年)

に詳しい。

 「2001年宇宙の旅」のようにSFにも優れた作品は多い。しかし、SF映画では人間の真実に迫るには限界がある。SFにはない、つまり人間の真実をえぐる感動のサイエンティフィク・トルー・ドラマ(STD)というものがあるとすれば、その嚆矢は「アポロ13」だろう。トルー(true)とは、事実に基づくという意味で、フィクションの対語である。

 日本のはやぶさ映画も、アポロ13号の映画の出来とまではいわないが、単なる金儲けの材料として利用しただけの商用映画に終わらせたくない。日本のSTDのさきがけにしたいものだ。

 注記

 この船長手書きの計算式を含むチェックリストが、つい最近、競売にかけられ、約3000万円で落札されたという。

  追記 2012.02.04

  かつて見た「アポロ13」をこの機会にあらためてDVDで見てみた。この船長の計算では、コンピューター時代の到来直前ということもあり、当時としては見慣れた

 計算尺

を使って行われたことを知った。宇宙船に計算尺が持ち込まれていたとはオドロキだ。ブログ子も大学院に入った頃、タイガー計算機とこの手計算で使う計算尺は研究には欠かせないものだったのを懐かしく思い出した。

 しかし、17年も前の映画だが、その感動は少しも変わらなかった。SFにしろ、STDにしろ名作とはそういうものだろう。

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