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地震の直前「予知」と確率予測とは別物

(2012.01.20) 今回のM9.0巨大地震には、発生後のいまごろになって

 発生の一カ月前ぐらいから2度にわたって、震源域となった近くの岩盤と岩盤の境目で「ゆっくりすべり(スロースリップ)」

が起きていたという事実が、東大地震研究所の研究グループの事後解析でわかったとNHKニュースは伝えている。これは巨大地震の前兆現象ではなかったか。この観点からスロースリップと前兆現象の関係を今後、もっと解明していきたいという。解明は結構だが、しょせん「そう言えば」というような後知恵的な研究だろう。

 というのは、スロースリップが仮に前兆現象だとしても、M9.0巨大地震かどうかという規模や、いつそれが起きるかということについては依然として、起こってみないと事前にはわからない。そもそも前兆現象であることは、発生後になってみないとわからないというのでは、とても予知とはいえない。

 「いつ、どこで、どのくらいの規模」という三点セットが必須の直前予知は事後にしかわからないという皮肉な現状に変わりはなさそうだ。

 ところで、前兆現象をとらえての直前予知のことを国際的には地震予知という。このことは日本でも阪神大震災まではそうだった。ところが、阪神大震災がまったくの不意打ちであったことから、政府は新たに

 長期的な確率予測、つまり、「30年以内にある地域にどれくらいの確率で大地震が起きるか」

という

 長期予測、つまり、確率予測

をするようになった。

 たとえば、今回の大震災を受けて、今月、政府の地震調査委員会は、

 東海地震が今後30年間に発生する確率をこれまでより1ポイント高めて、88%

と修正すると発表した。

 これは地震予知ではなく、長期の確率予測である。30年間のどのあたりで起こるのかということは問題にしていないので、

 88%といっても、それは切迫度を示すものではない。明日起こってもいいし、29年後に起こってもいいし、また、この期間内に起こらない確率が12%あるのだから、無事に何も起こらなくても、なんらかまわない。

 そんな意味である。念のためにもう一度言うが、予知は切迫度そのものであるのに対し、長期の確率予測は地震がもうすぐ来るかどうかという切迫度とは無関係である。阪神大震災後の日本独自の狗肉ともいえる特殊な考え方で、国際的にはまったく通用しない定義だ。

 週刊誌などでは、予知と、この長期の確率予測の区別をしないでごちゃ混ぜにして、今もって、〝オオカミ少年ごっこ〟をしているのはなんとも情けない。

 たとえば、最新の「週刊文春」1月26日号。

 必ず来る、では、いつどこに来るのか?

 「M8M9大地震予知」を一挙公開!

として、専門家たちの導いた「巨大地震予知」の最新版をお届けする

となっているが、中身をみると、それはおおむね長期的な確率予測なのだ。

 しかも地震雲による〝予知〟まであり、中身は玉石混交だ。具体的に挙げるのも気が引けるが、あえて挙げるとすれば、比較的にまじめな研究者の神沼克伊・総合研究大学院大名誉教授(固体地球物理学)が、

 静岡西部沖から(九州東海岸沿いの)日向灘 いつ起きるかの時期は特定できない

としている程度のものである。これくらい広く、時期も特定しなければ、外れることはよもやあるまい。

 地震雲からの〝予知〟では、根拠がはっきりしないが、1月15日から一週間以内。残念ながら、これは外れた(当たり前か)。また、この週刊誌の広告には、「保存版リスト付」とあるが、それはなんと、記事本文中に、しかも紙面の四分の一くらいの小さなスペースに七行ほどしかないリスト。保存版リストというイメージからはほど遠い誇大広告だ。

 記事には、東海地震のお膝元、静岡大学理学部地球科学科の生田領野助教のコメントとして、記事の最後に

 「大地震は、(日本の陸地、周辺海域では)いつ、どこでも起こりうるのです」

とあり、記事前文にも「地震予知はますます難しくなっている」と断り書きがある。となると、せっかくの、いつ、どこにくるか。最新版「巨大地震予知」の一挙公開とは何なのだ、といいたくなる。

 三点セットの必要な予知をにおわして、長期的な予測に(意図的に?)すりかえた典型例だろう。

 内情としては、11人もの〝専門家〟に取材したが、あまり期待した成果がなく、苦し紛れに書いたと想像されても仕方あるまい。

 その努力は買う。予知と確率予測とをきちんと区別した上で、次回の奮起に期待したい。

 追記 2012.01.21

  週刊誌の名誉のためにいっておきたいが、週刊誌がみんながみんな予知と長期の確率予測を履き違えているわけではない。

 たとえば、「サンデー毎日」1月29日号

 覚悟すべき巨大地震と本当の備え

というのは、さすがに新聞社系の週刊誌である。混同はない。というか、中身は先の文春と大同小異なのだが、記事中には

 一切、予知とか、確率予測

という言葉は使っていない。意図的だろう。

 この記事では、首都圏地震について、相模トラフというプレート境界で発生する海洋型地震(1923年関東大震災のような相模湾を震源とする大正型と、震源域が相模湾と外房総沖も含む1703年元禄型の二通りがある)は、繰り返しの周期が長いので、いずれも当分はないという。政府の地震研究推進本部の発表でも、

 首都圏が海洋型の大地震に見舞われる確率は、今後30年以内で確率は0-2%

と低い。しかし、

 首都圏での直下型(活断層型=1855年11月安政江戸地震型)については確率は70%

と高い。その理由は、土地が高度に活用されてきた首都圏の地下の活断層など地質構造がよくわからないという要因も重なって、おおよその目安としてこの数字がはじき出されているに過ぎない。とすれば、東海地震の場合の確率予測と大して違わない確率予測といっていいだろう。

 いずれにしても、サンデー毎日は、言葉では明記していないが、予知ではなく長期の確率予測の話に限定して専門家に取材している。妥当な姿勢であろう。

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