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現実味帯びだした地震、津波の「長期評価」

(2012.01.04)  偶然だが、正月3が日の最後の深夜、教育テレビを見ていたら、

 ETV特集選 大震災発掘/埋もれた警告/新たな脅威

というのを再放送していた。

 3本の特集をまとめて見たわけだが、ブログ子の感想を結論的に先に言ってしまうと、

 地震の(前兆現象をとらえての短期の)、いわゆる予知が出来ないとなれば、これまで

 現実味がないとして無視されてきた

 長期予測、すなわち地震、津波の長期評価を、遠い先の、それもあやふやなものとしてこれまでのように仮定の話として無視するのではなく、現実味のある予測ととらえ、原発の安全性、つまり耐震、津波対策をするべきではないか

ということだった。これが今回の人災ともいうべき大震災の教訓を生かす道だ。

 それともう一つ、地震発生の評価をめぐる考え方を、これまでと変える必要があることだ。当然、地震が発生することが考えられる海溝付近の空白域とは、地震の起きない場所ではなく、

 むしろ、長年のずれ残りが地震では解消されず、長期にわたって蓄積し、いつかは

大津波を伴う超巨大地震を引き起こす可能性が高い場所

ととらえるべきだということが番組を通じてよくわかった。これまでの地震の長期予測は、起きた地震を元に「後追いで」(島崎邦彦氏)評価している後ろ向き思考なのに対し、先読み、つまり「次」に起きるのは空白域であるという洞察力のある発想が要るという。説得力のある指摘だと思った。しかし、この発想が現実の対策として生かされることはなかったのは残念だ。

 大震災発掘という特集では、今回の大震災で、なんと、平安時代(869年)に東北で起きた巨大地震、貞観地震の津波の跡、いわゆる津波堆積物(海岸の砂)が地表に露出していたというのだ。この1000年以上前の地震では、かなり内陸に建てられた多賀城が破壊されたり、溺死者が城下だけで1000人ほど出たと「日本三大実録」に書かれているという。

 今回の巨大地震は、その規模や津波堆積物の分布状況から、この貞観地震の再来ではないか、と考えられている。

 貞観地震の発見は、今から25年も前の1986年。発見者は東北大学の箕浦幸治教授で、その学術的な詳細は、専門誌

 『J.Geology』(1991年)

に掲載された。もう、20年も前だ。その後、警告も兼ねて2001年にも同誌に続報を掲載している。

 その後、阪神大震災後に設けられた国の地震調査推進本部の調査委員会が

 「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(2002年)

をまとめた。今回のような超巨大地震が起きる可能性について言及したが、しかし、長期評価部会長の島崎邦彦委員など一部の委員が今回のような巨大地震が30年以内に起きる可能性が高いとする文言を盛り込もうとしたが、(原発推進派などを含む調査委員会の)大勢として、データ不足などで指摘は確実ではないことに留意する必要があるとの文言を挿入することで、調査結果を受けて原発の耐震、津波対策の強化を図らなくとも問題はないかのようなあいまいな表現にとどめた。しかも、書き換えられたのは、公表直前だった経緯が紹介されていた(証言者=島崎部会長)。文部科学省の推進本部事務局からの連絡は深夜の電話による了承の取り付けだったという。

この結果として、この地域に超巨大地震が起きる可能性が高いという箕浦教授や調査委員会報告書の警告が埋もれることになった。そして、今回のM9.0の巨大地震が発生し、箕浦教授の指摘する10メートルをこえる津波が福島第一原発を襲うことになった。

 今回の大震災は人災だった

ことがこの番組でよくわかる。

 番組では、部会の委員の選定には文部科学省の官僚の恣意性があり、中立性を担保する仕組みが要るのではないかと訴えていた。そのとおりである。

 審議会の委員選定の恣意性はなにも地震に関わる審議会だけではない。少なくとも、自然災害を審議する部会なり、部会報告をまとめる上部審議会では、政府の政策に左右されない科学的な知見を尊重するような、すくなくとも中立な委員構成や委員長選定が求められる。委員構成のゆがみがせっかくの先見性のある知見が封殺される現状はなんとしても解消するべきだが、何を持って中立とするか。科学的な知見がある程度あいまいにならざるを得ない場合、判断が難しいのが現状である。つい、電力会社のいいなりの結論に落ち着きやすい。ここに問題があろう。

 このことは、日本海側の原発をめぐる活断層調査でも露になっている。島根原発、柏崎刈羽原発。柏崎刈羽原発でも、2005年の大地震に遭遇して原発に大きな被害が起きて初めて、原発付近の海底に長い活断層があることを東京電力は海底調査で認めている。島根原発でも、付近の活断層が短く見積もられていることが最近の調査でわかってきているという。

 ブログ子もかかわった能登半島の

 志賀原発でも近くの海底の切れ切れの断層がもともと一本のものかどうかをめぐって設置許可取り消し訴訟で激しい論争になった。しかし、最近、これらがもともと一本のものであることが詳しい海底調査で判明、この原発の耐震性が、尤度があるにしても、果たして大丈夫かどうか問題になっている。

 原発の安全性について、科学論争が初めて訴訟で争われたのは、愛媛県で1973年に設置差し止めを提訴された伊方原発建設(四国電力)である。この原発の付近には、中央構造線が走っており、原発付近での状況が争点となったが、結局問題はないと判決された。しかし、それは、重大かつ差し迫った危険があるとまではいえないということからの判断であり、将来重大事故が起こらないことを保障したものではない。

 こう考えてくると、今回の大震災を機会に、既存原発の許可事後のバックチェックはもちろん、それを受けた現行設置基準の見直しを政府(内閣府の原子力安全委員会や文部科学省)は急ぐ必要があろう。これには、東電はもちろん、すべての電力会社の積極的なデータの提供が必要だ。

 よく言われる、多重防護が施されている原発の重大事故は

 100万分の一

といえるくらいに小さいという「神話」はまやかしであり、科学的な根拠はないといってもいいだろう。

 最後に、「新たな脅威」という番組では

 南海地震と東南海地震とが、かつて(約2000年前)、ほぼ同時に(連動して)起きた証拠を紹介していた。高知大学理学部の研究グループだった。

 高知県、徳島県、三重県の開発で荒らされていない湖の水底ボーリングの成果は紛れもなく、この広大な地域が津波に襲われていた科学的な証拠(海岸の砂などの津波堆積物の存在)を示していた。

 また、北海道大学の平川一臣教授も、根室沖海溝付近では、十勝から根室までの太平洋岸で繰り返し、巨大津波が数百年単位で発生し、海岸奥深くまで津波堆積物を運び込んでいた事実を番組で紹介していた。これらの地震は十勝沖地震と根室沖地震とがほぼ同時発生(いわゆる連動型)していたと考えられるという。地震の規模は、従来はM8.3程度と推定されていたが、今回の大災害で、M9.0もあり得るという。

 こうした同時発生地震というあらたな脅威は、決して、400年先、500年先に起きるのではなく極論すれば、

 明日起きてもおかしくない

情勢なのである。

 追記

 上記のブログ記事を書くに当たっては、番組だけでなく、

 月刊科学誌『科学』2011年5月号

 「超巨大地震、貞観の地震と長期評価」(島崎邦彦・東大名誉教授・地震学)

 や、菅原大輔氏(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、箕浦教授などの

 「地質学的データを用いた西暦869年貞観地震津波の復元について」(『自然災害科学』2011年)

を参照したことを付記する。島崎、箕浦両氏は今回のETV特集にも出演して、示唆に富む証言、解釈を提示していた。

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