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原作を読む意味 NHKドラマ「坂の上の雲」

(2011.12.26)  3年にわたるNHKの大型ドラマ「坂の上の雲」が先日、終了した。その感想を一言で言えば、以前にも少し述べたが、

 明治という若い近代国家の正義、つまり、ロシアの南下膨張政策阻止

 門閥によらない実力主義による人材登用

という国民の正義が同一視できた時代の明るさであった、それこそ「まことに幸せな時代」の物語だったということだろう。この一致した正義を原作者の司馬遼太郎さんは、「雲」にたとえた。ドラマは、「これほど楽天的な時代はなかった」と結んでいる。そのとおりだ。

 ただ、司馬さんは、この作品が映像化されることを生前は認めなかった。おそらく、戦争賛美と誤解されることを嫌ったからだろう。

 それだけに、ドラマでは、戦闘シーンをできるだけリアルに描くことで、戦争というもののむごたらしさをあちこちで描いていた。近代戦争のすさまじさをまざまざと見せ付けた。これは、司馬さんの意に沿っていて成功といえそうだ。NHKもこの点では、なかなか思い切ったことをしたものだ。高く評価したい。

 それにしても、ドラマは原作『坂の上の雲』(全6巻)にほぼ忠実であったのには感心した。ただ、原作のほうが、なぜそうなったのか、心理にまで堀り下げて陰影のある作品に仕上がっているのに対し、ドラマの限界なのだろうか、そのへんがあっさりしていて、原作を読んだものとしてはドラマの人物描写が物足りない。わかりやすいが、あまりに単細胞人間が多すぎた。

 日露戦争については、

 吉村昭『海の史劇』(新潮文庫)

  島田謹二『ロシヤ戦争前夜の秋山真之 明治期日本人の一肖像』(朝日新聞社、全2巻)

  和田春樹『日露戦争 起源と開戦』(岩波書店、全2巻)

などがある。いずれも読破したが、特に2010年に発行されたロシア現代史研究の第一人者の和田氏の論考は、ドラマに大きな影響を与えたのではないか。

 40年近く前に書かれた司馬さんの原作では、日本は止むに止まれず、窮鼠猫をかむの思いで戦争に踏み切ったことになっている。しかし、和田氏のこの10年の史料発掘で、ロシア皇帝は戦争を望んでいなかったし、また、開戦直前には日本側の要求に対して「全面譲歩」の訓令をだしていることがわかった。このことがドラマでも一部取り入れられている。

 また、吉村氏の作品は小説というより、ドキュメンタリー性が強く、ロシア側から見た日露戦争の様子が大まかにわかる。日英同盟が日露戦争勝利に決定的に貢献したことがこの作品を読むとよくわかる。

 島田氏の研究からは、秋山真之氏の行動がかなり詳しくあぶりだされていたが、ドラマの限界、つまりあまり複雑にしては視聴率が下がるという理由からか、あっさりと描かれている。秋山真之はこのドラマの主人公なのだから、もう少し心の葛藤、相手との対立について、踏み込んだ脚本にすれば、明治という時代の人間の楽天性や気骨がもっと伝わってきたのではないかと、残念に思った。

 このように、テレビドラマだけを見ていたのでは、物事を単純に割り切りすぎていて、本当の歴史の真相を見誤ると感じた。少なくとも、ドラマを見る前に原作を一度読んでおくか、ドラマを見た後に原作を読んでみると、深みのある歴史が見えてくる。そこから自分なりの意見も生まれるし、歴史を見る目も養える。

 追記

 蛇足だが、日露戦争下の城下町金沢を舞台にした芸妓とロシア人将校との恋物語としては、

 五木寛之『朱鷺の墓』(全4巻)

というのがある、しかし、これは完全な(若き日の)寛之風の恋愛物語であり、日露戦争とは名ばかりのもの。タイトルの「朱鷺」とはなにか、さっぱりわからない。

 当時、ドラマ化されたらしい。そのほうは知らないが、失礼ながら、大長編の原作小説の出来はすこぶるよくない。直木賞受賞直後の作品だからだろうか。あえて言えば、出来がいいのは第一巻ぐらい。これから何が起こるのか期待が膨らむ。が、あとは、脈略なく、ご都合主義で世界のあちこちを駆け足で飛び回るような話でうんざりしたのを記憶している。羊頭をかけて狗肉を売るたぐいとまでは言わないが、タイトルだけが奇妙にすばらしいのも、読者を結果として欺くようで困りものだ。

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