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4%宇宙  〝ダークマター〟の探索実験

(2011.11.03)  最近話題の

 ダークマター(暗黒物質)の探索実験

について、日本をリードする鈴木洋一郎氏(神岡宇宙素粒子研究施設長、東大宇宙線研究所教授)の講演が浜松市であるというので出かけた。

 この講演を聴いて、ようやく、ダークマターとはどういうものかということがおぼろげにではあるがわかったような気がした。さすがは、世界最先端の実験のリーダーであるだけに、迫力のある話だった。

 戦前から、銀河天文学では、

 不明な物質として〝ミッシング・マス〟という概念は存在した。しかし、それは観測精度が上がれば、ある程度は解決するか、または、現在の分子、原子、素粒子の範囲で解決すると考えられてきた。しかし、どうやら、そんなことでは解決できない事態になりだしたのが、この10年であろう。

 つまり、既存の物質、既存のエネルギーでは宇宙の成り立ちが説明できない。われわれがまだ知らない新しい物質やエネルギーが確かに存在する。正体不明の物質やエネルギーは観測誤差や探索不足による幻ではない。未知の素粒子が存在する、あるいは介在するという認識が急速に研究者の間で定着してきたのだ。

 その表れが、ダークエネルギーとも関連があるとされている加速度的に宇宙が膨張し続けているという驚くべき観測結果に対して、今年のノーベル物理学賞が授与された点である。

 講演の概要は、実験装置はXMASSと呼ばれていて、約1トンの液体キセノンを用いて、そこでの正体不明の物質、ダークマターとの相互作用を光電子増倍管でとらえて、その正体を明らかにしようというものだ。このときの核心となる増倍管は浜松の先端企業が開発したものであるところが、浜松に暮らすブログ子にとってはうれしい。

 正体不明の物質といっても、これまでの天文学的な観測から、

 重力を持つこと、安定している粒子であること、宇宙の大規模構造の形成を妨げない程度の速度(つまり非相対論的な速度)であること、電気的には中性であること、光、電波、エックス線などの電磁波は出さないこと

 などがわかっている。

 この天文学的な要請から、正体不明の素粒子が持つべき素粒子物理学的な要請として、この正体不明の物質候補(WIMP)としは、

 質量は陽子の100倍程度

 一立方㍍に3000個程度

 運動速度は毎秒200キロ程度

と推定されているという。これを地中深くに設置したXMASSでとらえようというのだ。実験は2009年秋ぐらいから本格化している。

 問題は、642個の増倍管を張り巡らせた実験装置の中で、どれくらいの頻度で、キセノンとの衝突などの現象が検出されるかということだ。

 講演によると、これまでの海外での増倍管の感度に対して、100倍も鋭い増倍管を使っても、

 数日に1回程度

という。さまざまな観測的素粒子物理学の知見から、この正体不明の物質の検出には

 季節的な周期性(夏季のイベント数は多く、冬季のイベント数は少ない)

があることが予想されるので、ほんとうに探索している物質なのかどうか、確証の一つとなりうるのである。

 正体不明の物質の有力候補(WIMP)に、理論的な考察から

 超対称性粒子の一種

という新しい素粒子が挙げられている。

 つまり、ダークマターの正体は、超対称性理論で予言されている安定で電気的には中性の新素粒子ということになる。今は、理論からの仮想上の粒子だが、XMASS実験が成功すれば、観測的宇宙論と理論的宇宙論が統一的な宇宙像を描き出す大きな一歩になりそうだ。

そして、ダークエネルギー。

 宇宙の物質・エネルギーの総量は、この10年続けられている宇宙背景放射観測衛星(WMAP衛星)の全天マップデータ、あるいは、宇宙の銀河団のつながりを示す「宇宙の大規模構造の形成づくりのシュミレーション」などの結果から 

 宇宙全体の物質・エネルギーは、おおよそ(E=m×光速の2乗で換算)

         重力を持つ物質として、星や銀河などの割合    約 4%

                         ダークマターの割合    約25% 

                                       計約30%

         重力には無関係なダークエネルギーの割合     約70%

という構成になる。これを見て驚くのは、私たちが見ている夜空の物質(そのほとんどは水素とヘリウム)は、宇宙全体の物質・エネルギーのわずか4%に過ぎないという点だ。もうひとつ、正体不明のエネルギー、ダークエネルギーが宇宙全体の物質・エネルギーの半分以上を占めていることにもも驚く。

 4%宇宙

という言葉さえ、最近では言われだしている。

 もう一つ言うならば、未知のダークマターは、なんと、われわれが長い間宇宙で見てきた星や銀河、あるいは銀河団という物質やエネルギーの5-6倍もあるのだ。ということは、20世紀までの天文学は、宇宙のほんのわずかの姿しか研究してこなかったことを意味する。

 ダークエネルギーの正体については、静的な真空のエネルギ(アインシュタインのΛ項に対応)とか、動的には粒子の場を想定する考え方も理論的宇宙論では唱えられ始めているらしい。

 今回の講演は、ブログ子に、ダークマター、ダークエネルギーについての基本的なことを教えてくれた。

 繰り返すが、今の宇宙は

 4%宇宙なのだ。(2011.11.03)

  追記 

  こうした宇宙像について、10年前はどのようなものであったか。そんな思いで、書棚をいろいろ探してみたら

 月刊科学誌『科学』(2001年8月号、岩波書店)に

 特集 宇宙論はどこへ向かうのか?

というのを見つけた。

巻頭言は、

 宇宙論の転換期を迎えて 

と題して、岡本定矩さん(東大理学部大学院、天体物理学)が、ダークマターやダークエネルギーの謎について言及している。

 特集内容でも、総説として、佐藤勝彦さん(東大理学部大学院、素粒子宇宙論)が

 宇宙はどのように膨張しているのか

と題して、10年後の現状をほぼ的確に、言い当てているのには驚いた。同氏が提唱した

 宇宙の初期の進化を説明するインフレーション理論がこんにちでも理論的宇宙論の土台になっているとをうかがえさせる。

 ビックバンの瞬間そのもの、あるいはその直後については、

 『SCIENTIFIC AMERICAN』 1999年1月号

の特集(最新観測はこれまでの宇宙論の見方を塗り替えた

としている。

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