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正倉院に挑む 竹工芸・橋本仙雪の執念

(2011.11.05)  金沢で20年暮らし、今は浜松に住むブログ子だが、金沢の竹工芸家、橋本仙雪さんの遺作展が石川県立美術館で開かれていると聞いて、先日、出かけた。兼六園下の工房に何度か訪れ、その仕事ぶりを垣間見せていただいたことを懐かしく思い出した。

 最初におうかがいしたときには、とっくに70歳をこえていたように記憶する。一人黙々と手を動かし続けている様子がガラス越しに道路からも見えた。言葉はよくないかもしれないが、玄関先工房と言えば、わかりやすい。しかし、道路を行きかう金沢人も、そして観光客も、そのほとんどは、橋本さんが正倉院の作品に魅せられて、それをなんとか現代によみがえらせようと執念を燃やした時期があったことを知らないだろう。いや、それだけではなく、往時の職人がなそうとしてできなかった技を生み出そうとまでしていた。橋本さんの還暦60歳ごろのことだ。

 その完成品が、陳列室にある直方体の形に編み上げた

 蘇芳染竹網代飾箱(すおうぞめたけあじろかざりばこ)

 四ツ菱の模様が底を除いた五面に継ぎ目なく編みあがっている。上部の四ヵ所の角でも

模様が切れ目なく流れるように処理され、垂直面に入り込んでいく。これを描くのではなく一本の竹で編み上げるのである。

 このお手本というか、この挑戦的な作品づくりの元になったのが正倉院御物の中にあった。橋本さんは若いころ、20年も正倉院展に通ってこの正倉院御物の竹工芸品の編み方を研究した。

 橋本さんのお弟子さんの解説によると、正倉院のものは直方体の各面ごとに編み上げ、最後にそれらを直方体につないだものだった。

 橋本さんは、この2次元的な組み立て作業を、3次元立体に一気に編み上げる技を身につけることに成功したという。2次元組み立てに比べて、模様の入れ方、編み方が極端に難しい。そのかわり、橋本さんの飾り箱には、面と面のあいだにつなぎ目はなく、スムーズに模様が上面から垂直面にやや丸みを持たせて流れている。三つの面が集まる角のいずれも統一的な模様と形で違和感なく、滑らかに仕上がっている。

  竹の持つしなやかさを織り込んだ見事なわざである。逆に言えば、竹の持つ柔軟性と反発力を引き出したいがための3次元作品への挑戦ともいえよう。

 ここに、古典に学ぶとともに、古典にとどることなく、往時の職人がなそうとしてなし得なかったわざに挑み、発展させた橋本さんの執念が漂ってくる。 

 橋本さんは正倉院の技術に挑むことで、往時の職人の心を味わいたかったと当時語ったらしい。

 思うに、橋本さんは作品を編み上げ、完成させたことで、千数百年の時を超えて古典をつくった往時の職人と気後れすることなく対話ができたのではないか。自信が付いた。そのことは、還暦後の作品に表れていた。古典の技を大事にしながら、古典の模倣ではない独自の境地で、なくなるまでの30年間を竹工芸づくりにささげたのではなかったか。

 言い換えれば、正倉院の作品に出合い、当時の名工たちにもできなかった技を生み出すために、自分の前半生があったと実感していたように思う。だから橋本さんにとって、世俗的な名誉や栄誉はほとんど眼中にはなかったと思う。あったのは、古代人の技への畏敬と発展だった。

 特別陳列には、美術館で同時開催中の「日本伝統工芸展」の会場のような賑わいがあったとはいえない。帰り際、静かな展示室を振り返ると、数々の展示作品が

 誰が知ろう、古典の職人の心を。そして、その技の深さを

と語りかけてきたような錯覚を覚えた。

 その心と深さを現代人に垣間見せてくれたのが橋本さんの執念だが、それを支えつづけた妻の存在を忘れてはなるまい。

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