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宇宙は加速度的に膨張している - 物理学賞

(2011.10.07)  今週は「ノーベル賞ウイーク」で、これまでに自然科学系3賞が決まった。が、まさか、宇宙はますますスピードを上げて加速度的に膨張しているという観測的宇宙論の成果に物理学賞が与えられるとは、予想外だった。ノーベル3賞は、人類の福祉に寄与する基礎、または応用研究に授与されるものであり、数学とか、天文学とは縁遠いと思っていたからだ。しかし、その意味は大きい。つまり、

 この10数年間に積み重ねられてきた加速度的膨張宇宙の発見への授与は、観測的宇宙論が「第三の革命期」に入ったことを意味する。第一期は1920-30年代、第二期は1960年代。

 それだけでなく、理論的宇宙論への影響として、ニュートン力学からアインシュタインの相対論的力学への転換に匹敵するような大きな影響を与えるだろう。

 もっとも小柴昌俊氏が宇宙物理学にニュートリノ天文学という新しい分野を切り開いた業績で2002年度の物理学賞に輝いた。しかし、これは、宇宙論でも、現代物理学の基礎となっている素粒子物理学を駆使しての観測的宇宙論への貢献が対象であったから、選考委員会が基礎分野を重視していることがわかる。宇宙論の考え方の根本を覆すものではないものの、授与はそれなりに納得できた。

 これに対し、今回は、そうした現代物理学の基礎とはおよそ関係なく、むしろ、古典的な手法の、しかも、人類の福祉に関係あるとも思えない観測的宇宙論の成果が評価されたのだから、ひどく、ブログ子などは、とまどいを感じた。

 宇宙は膨張しているが、重力が働くため次第に減速しながら、膨らんでいる。あるいは、減速の勢いがとまり、いったん静止し、やがて、引き戻されて収縮する。現在の宇宙の状態は、このいずれかであると、1990年代末あたりまでは、ほとんどの天文学者は考えていた。その場合、いろいろな観測から、膨張はしているが、その勢いは弱まっているという前者が圧倒的な支持を受けていた。

 1960年代に、宇宙は100億光年の前に、何らかの原因で、爆発的に膨張をはじめたことが観測的に確かめられ、1960年代に観測的な宇宙論として

 ビッグバン宇宙論

が確立した。この発見(いわゆる3度K黒体輻射)により、アメリカの電波科学者、ペンジャス氏とウイルソン氏に1978年に物理学賞が授与されている。このときも、物理学の手法としては、電波科学という古典的な手法で賞を射止めることになった。

 このビッグバン宇宙論は、1920-30年代に観測的に確立した

 膨張宇宙論(E.ハッブルの「銀河と赤方変異との関係」の発見、1931)

を強く支持するものになった。これにより、定常宇宙論や静止宇宙論は姿を消すことになる。しかし、偉大な発見にも関わらず、観測的宇宙論学者、ハッブル自身はノーベル賞とは無縁であった。

 こう考えると、今回の加速度的膨張宇宙の発見は、基本的にはハッブルの観測手法、考え方の延長上で得られたものであるといえる。

 ただ、得られた結果が、驚くほど信じがたいものであったのだ。最初の膨張宇宙論も、ビッグバン宇宙論も、いずれも、膨張はしているものの、その勢いは、宇宙にある銀河などによる重力により、減速しながら膨張しているはずだというものだった。

 ところが、これまでできなかったさらに遠方の観測をしたところ、案に相違して、たとえば、これまで距離を正確に測るのが難しかった100億光年、あるいは130億年といった遠方での銀河の後退速度(膨張速度)が技術の進歩で、測定可能となると、

銀河の後退速度は減速するどころか、加速している傾向がある

ことが、今世紀に入ってから次第に確定的になってきた。これは現代物理学のこれまでの知識では、理解しがたい結果である。

 そこで考えられているのが、100億光年というような長大な距離では、

 離れれば離れるほど、重力とは反対に、より強い反発力が物質に働く

という新しい相互作用(力)が理論的には存在するのではないかと、この10年、考えられるようになってきた。太陽系くらいの規模では、この反発力は到底計測できないくらい桁違いに弱いというわけだ。

 この相互作用に対応する物質を、いまだ観測的には発見されていないが「ダークマター」とか「ダークエネルギー」と呼ばれている。これまでにはっきりしたのは、この物質は私たちが知っている原子や分子、あるいは素粒子などから成り立っているのではない未知のものだとうことだ。

 このように、古典的な手法による観測的宇宙論の成果にノーベル賞が授与されるのは、古典的であるとはいえ、現代物理学、とくに素粒子物理学に画期的な進展が大いに期待されるものであるからであり、その期待に背かなかったビッグバン宇宙の発見(3度K輻射)以来、33年ぶりではないか。

 そんなことを考えながら、ブログ子の本棚を探していたら、

 『銀河の発見』(R.ベレンゼンほか、地人書館、1980年)

 『ビッグバン宇宙論』(サイモン・シン、新潮社)

がひっそりとほこりをかぶっていた。

 ビッグバン理論の提唱者についてかかれたものとしては

  『ビッグバンの父の真実』(J.ファレル、日経BP)

などもみつかり、その父が牧師であることを知って、読み返してみたい気になった。

 秋の夜長をしばし宇宙論に親しみ、楽しんでみたい。

 それにしても、相互に離れれば、離れるほど、その間により強く反発する力を働かせる作用とは、どんなものなのだろう。そしてその正体としてのダークマターとはどんな姿をしているのだろう。そんなことがまだまったくわからない段階での授与には、与えるほうにも、なかなか勇気も行っただろう。押して、その発見の楽しみを知的好奇心のある世界の多くの人々にプレゼントしたような、〝粋な〟今回の物理学賞だったように思う。

 選考委員会に敬意を評したいが、素人ながら、これからの宇宙論研究の成果が楽しみだ。

 こうなってくると、

 私たちの住んでいる宇宙のほかにも、もう一つ、いや無限の時空の異なる宇宙が、それもこの宇宙の果てではなく、〝ほんの隣に〟あってもおかしくないように思えてくる。

 (2011.10.07)

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