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原爆投下知っていた日本陸軍  米、降伏する前に急いで投下せよ

 (2011.08.07)  戦争の非情さというのはこういうことを言うのだろう。

 土曜日夜のNHK総合「原爆投下」を見て、そう感じた。参謀本部の特種情報収集班が、米側がテニアンから特殊な爆弾など特別な任務を担ったB29が広島など日本に近づきつつあることをつかんでいたことを初めて明らかにしたドキュメンタリーを紹介していた。広島に原爆が投下された3日後にも、まったく同様の通信を傍受。その情報を参謀本部の上層部に上げたけれども、取り上げられることはなかったというものである。長崎に原爆が投下される5時間前にも投下の可能性をその通信記録から特種班は気づいていた。あるいは察知していたらしい。

 こうした話は、今思えば、という結果論が付きまとうが、参謀本部の指揮に重大な判断ミスがあったのではないか。もう原爆投下はないと、根拠薄弱な希望的な観測で思っていたのかもしれない。それとも、長崎原爆投下の旧ソ連の突然の満州進攻で参謀本部は、混乱、あるいはソ連進攻に気をとられていた可能性もあろう。

 もっと非情な事実を、NHKプレミアムで同じ土曜日の夜放送していた。

 タイトルは、「ヒロシマの黒い太陽」

である。科学者たちの原爆開発の様子を描いたものだが、あらゆる困難を乗り越えて、政治的な要請から一刻も早く開発、いかに実験成功にこぎつけるか。オッペンハイマー博士など科学者の無邪気なまでの熱心さには感心した。科学者は偉いと思った。

 だが、敗色の濃い日本が降伏するのは時間の問題だった。にも関わらず、開発をぎりぎりのタイミングで完成させ、米側は直ちに日本に投下することを急いで決定したのはなぜか。

 日本が降伏する前に、原爆を投下せよ

という政治的な思惑があったからだ。つまり、旧ソ連などに対して、原爆の威力を実戦で誇示しておくことは、大戦後の国際政治において、米国が無限の外交力を手に入れることになるという判断からだ。それと、莫大な国費をかけて完成していたのに、もし実戦では使われなかったとしたら、そして、その分、米将兵の命が多数失われたとしたら、当時のトルーマン大統領は戦後、激しい非難を受けたことだろう。大統領としては、降伏前にどうしても投下する必要があったのだ。

  原爆投下は、戦後の国際政治の主導権を米国が握るために行われたのだ。戦争を早く終わらせるためにやむなく投下したというのは、後からつけたこじ付けだったのだ。

 その犠牲になったのが広島市民であり、長崎市民だった。戦争とは、かくのごとく非情なものであることをあらためて思い知らされた。未知の技術に対する科学者の熱心さは賞賛に値するが、その社会的な責任にもそれと同様に熱心でなければなるまい。(2011.08.07)

  追記 

 米側は日本が降伏する前に原爆投下をする必要性に迫られて開発を急いだのだが、実は、旧ソ連側も、日本が降伏する前に一刻も早く満州から参戦するよう極東で参戦準備を急いでいたのである。

 アメリカの原爆開発に対して、スターリンは

 原爆による脅しはきかない

ということを示すために、旧ソ連もまた原爆開発を急ぎ、4年後の1949年8月に最初の原爆実験に成功している。これはほぼ、アメリカが開発に成功するのに要した時間に近い。いずれの国にとっても、最も時間がかかったのは、高濃縮ウランの入手であった。大量のウラン鉱石の入手であった。

 この間、トルーマン米大統領は、米議会で反共演説(1947年)をしているし、旧ソ連はこれに対抗し、西ベルリンの陸路封鎖を断行している(1948年)。この年には、韓国が独立し、続いて北朝鮮も独立し、冷戦は過激度を増していった。

 こうした事情については、

 『スターリンと原爆』(大月書店、D.ホロウェイ)

に詳しい。旧ソ連の原爆開発には、アメリカの開発資料のスパイによる流出が開発時間の短縮に大きく寄与したといわれたりもするが、開発時間はそれらよりも、やはり、高濃縮ウランの生産ラインの効率的な建設によってほとんど決まったといっていい。

 実は、日本軍(陸軍)も、戦争後半になって、理化学研究所を中心に:原爆開発を計画したが、なにしろ、肝心のウラン鉱石が国内にほとんどなかったことで、計画倒れに終わったいきさつがある。(2011.08.07)

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