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ナマコの天国 定年後20年で6万時間

 (2011.07.30)   歌う生物学者として知られる本川達雄(東工大大学院教授)さんが、近著

  『生物学的文明論』(新潮新書)

という愉快な本を出版した。ブログ子と同じ歳の団塊世代で、20年前、名著でベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)を出した。今回も文明は四角。でも、生物は丸いと説くのだから内容は面白くないはずはない。

 そのなかでも興味深かったのは、ご自身が30年も研究してきたナマコの話。なんと、ついには

 ナマコ天国

という歌までつくって、曲もつくり、自ら教壇で歌うのだから、うれしい。サービス精神旺盛なのだ。

 ナマコには脳はない。心臓もない。感覚器官もない。筋肉は少しあるが、ほとんどは分厚い皮ばかりのナマコ。金沢在住が長いブログ子には、真冬の赤提灯で、あのこりこりした歯ざわりのナマコ酢を食べるときの幸せは忘れられない。そのナマコというのは、正確にはナマコの皮なのだそうだ。

 そのほか、ナマコには目もない、耳もない。何を食べているのかというと、海底にある砂をもぞもぞと動いて食べて生計を立てている。いまどきの言葉で言えば、超省エネの生物というわけだ。

 本川文明論は、ゾウも、ネズミも「おのおのの動物は、それぞれに違った世界観、価値観、論理を持っているはずだ。たとえその動物の脳みその中にそんな世界観がなくても、動物の生活のしかたや体のつくりの中に、世界観がしみついているに違いない」(『ゾウの時間ネズミの時間)という成果を出発点にしている。

 人の定年前というのは、ゾウやネズミのようにそれぞれにエネルギッシュにはたらけばいい。しかし、生殖期間を過ぎた定年後は、人間というのは、生物学的文明論からいえば、

 いわば人工生命体

のようなものと説く。ナマコのような超省エネの生き方もいいのではないか。あれもほしい、これもしたいという生活から、なんにもない生活。ないない尽くしのナマコは大変な生活力の持ち主。ちょっとやそっとではやっつけられない。敵を追い払うドクも持っているらしい。

 そんなナマコの生活は天国だ!

というわけで、定年後はナマコ生活に限ると本川さんは結論付けている。そして、歌までつくってしまったのだ。

 人間の定年後の自由時間は、週二日はアルバイト・嘱託・雑用でつぶれたとして、また、年2週間は無給休暇をとったとしても、まだ、

 250日の自由日数

がある。一日8時間の睡眠をとり、4時間を雑用でつぶしたとしても、

 まだ、一日12時間の自由時間

がある。占めて、年間3000時間の自由時間がある。定年後20年生きたとして、

 ナマコ天国の自由時間はなんと、6万時間もある。これは、サラリーマンの基本給に対する所定労働時間(年間約1800時間)の32年分にもあたる。

 つまり、定年後のナマコ天国の時間は、6万時間

ではどうこれをすごすか。

 ブログ子は、現役時代にはできなかった大長編小説を味わう

         ブログ書きを楽しむ

         仲間をつくる社交ダンスを楽しむ

         仲間をつくるボランティアを楽しむ

         映画を楽しむ

         「赤提灯」を愛する

などのほか、まだ、いくつか、ここでは書かないが味わい、楽しむことにしている。料理を楽しむというのもいいような気がする。

 ところで、ふと、こんなに時間があるのだから、前回の世界記憶遺産の山本作兵衛さんのように何か、ライフワークに取り組んではどうかと思ったりした。

 しかし、気づいた、結構だが、それは山本さんだからできた「ナマコ天国」の過ごし方だったのだ。みんながみんなそんなライフワークなんかできるわけがない。山本さんも、まさか、これが記憶遺産に登録されるとはよもや思わなかったはずだ。ナマコ天国を30年続けていたら、それが結果としてむ記憶遺産になったのであって、

 よし、ひとつ、世界記憶遺産をライフワークにしよう

と30年間がんばったのではない(と思う)。懐かしい炭坑(やま)の記憶が人々から消えていくのがかなしいという、ただ、それだけの動機だったように思う。記憶遺産とはそういう純粋さが欠かせない。

 ナマコ天国文明論は、ライフワーク不要論に通じる

と自戒した。以前にも書いたが、現役を「登山の時代」とすると、それと対等な意味で、

 下山の時代を楽しむ

案外、そこからライフワークが生まれるのではないか、ナマコはそんなことを教えているのかもしれない。ライフワークに、ライフワークなしといえば言い過ぎか。2011.07.30

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