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長生きのコツは〝腹八分目〟 老化を抑える「飢餓遺伝子」 あまりに単純、 誤解が心配

 7月3日午後、先月12日のNHKスペシャルで話題を呼んだ

 寿命は延ばせる 長寿遺伝子

という番組の再放送を見てみた。その内容をひとことで言えば、

 長生きのコツはまさしく〝腹八分目〟

というカロリー制限にあるということだった。金沢医科大で、男女4人を対象に、通常の食事量を4分の一カットして、一ヶ月後、二ヵ月後に、細胞中でエネルギーを生み出す

 ミトコンドリアの量

を測定する実験が紹介された。その結果、ミトコンドリアがはっきりと、たとえば30%以上も増加したというものだ。

 それがどうした、といいたくなるが、番組全体を見ての結論を言うと、

 数ヶ月間、腹八分目という飢餓状態に細胞がおかれると、細胞内のミトコンドリアは、不足分を効率よく補おうと、ミトコンドリアを増殖し、しかも、エネルギー発生時に出る老廃物とも言うべき活性酸素の発生をできるだけおさえる遺伝子、飢餓遺伝子(番組では長寿遺伝子)を活性化させ(つまり、活性酸素を抑える酵素を出し)、その結果、人体の組織や臓器を傷つけるのをおさえるというわけだ。

 番組では、80匹の飼育サルを、半数はカロリー制限、残りは制限なしの食事を与え、20年間、飼育した結果も紹介されていた。制限のないサルの半数は死亡。これに対し、制限のあるサルはなんと8割が生きているという(米ウィスコンシン大学での老化を遅らせる実験)

 老化の原因は、おそらく人体の組織や臓器の活性酸素による破壊のほか、前項で述べたように「長寿と性格」というのもそのひとつに過ぎない。そのほか老化には、さまざまな生活習慣病の原因なども含めて100種類以上の原因があるといわれており、それらを総合した結果がその生き物の寿命ということになる。

 この番組では

 ミトコンドリアの出す活性酸素の量をおさえる働きのある

 サーチュイン遺伝子(飢餓遺伝子)

にのみ注目していた。これは問題を単純化しなければテレビではなかなかその趣旨が伝わらないことからあるいは仕方のないことかもしれない。しかし、誤解を生みやすい。

 どんな誤解か。

 こうした遺伝子がたくさん含まれている黒ぶどうなどから抽出した

 ラスベラトール

を含むサプリメント(健康補助食品)を常用すれば、カロリー制限などしなくても、悪玉の活性酸素の発生を抑えてくれて、長生きができるという誤解だ。しかし、サーチュイン遺伝子が発見されて10年、いまだこのサプリが医学的に効果があると臨床試験で確かめられているわけではない。

 たとえ、確かめられたとしても、遺伝子を含むサプリを飲んでも、それを活性化させる、つまり、酵素を作り出し、それがミトコンドリアの出す活性酸素の発生を抑えなければ、効果はない。カロリー制限の場合は、活性化のきっかけは細胞の飢餓からの脱出であったが、飽食の中で飲むサプリの場合、そのきっかけは何なのだろう。そのあたりの納得のゆく説明はなかった。いくらサプリを飲んでも、遺伝子が活性化しなくては、飲まないのと同じだ。

 番組でも強調していたが、飢餓遺伝子をほとんどすべての生き物が持っているのは、進化の過程で飢餓にたびたび出会うことがあり、そこから生まれてきた自己保存機能であろう。それを飢餓でない、つまり腹いっぱい食べ続けて、長生きしたいというのは

 人間の強欲

ではないか。進化の過程とは異質である。

 それと、もうひとつの誤解、この飢餓遺伝子さえうまくコントロールすれば、

 人間の平均寿命は100歳まで延びることも可能

と番組の終わり間際に語っていたのは、誤解を招くというよりも誤りであろう。老化の原因は100種類以上あるらしいから、

 人間の平均寿命はおそらく数百、数千の遺伝子の「多重フィードバック」という総合的な相互作用で決まる

というべきではないか。

  このことをきちんと述べないでおくと、番組を見た多くの人は、ひょっとすると、カロリー制限するだけで、それすらいやな人はサプリを飲むだけで、簡単に長生きできる、と安易に思い込んだり、誤解を与えたりしかねない番組になる。そんな印象を持った。

 人間やほかの生物は数十億年の進化の中で、遺伝子を新たに創出するだけでなく、既存の遺伝子を組み替えたり、それでもうまくいかない場合には遺伝子の組み合わせをそのもの変えたりと試行錯誤を繰り返しながらたくましく生き残ってきたのであるという進化観をもって、番組制作に当たってほしい。

 たった一つの遺伝子で人間の何々が決まるという幻想はもうやめにしたい。わかりやすいが、とんでもない誤解を生み、危険ですらある。

 危険もさることながら、皮肉をひとつ。そんなに長生きをして、あなたは何をしたいのか、ということがもっと問われるべきであろう。長生きするだけが人生の目的ではない。もっとも、この目的を教えてくれるそんな便利な遺伝子があれば、それこそ人類の福音だろう。残念ながら、神は、そんな便利な人生目的遺伝子なるものまで人間にはお与えにはならなかったと思う。2011.07.03

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