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東日本大震災は、おいしいビジネスチャンス? うんざり、がっかり

 浜松市内でバスの待ち時間の合間に、浜松市でも有数の大きな書店をのぞいてみた。入り口のところに、

 東日本大震災、話題の本

という特設のコーナーがあった。この三ヵ月間、うんざりするほどの大震災本がバタバタとお急ぎで出版された。主に手早さが売りの新聞社、週刊誌を発行する大手出版社が中心。さすが機動力があり、商売上手である。

 ところが、この特設コーナーには、震災発生からまだ、三か月しかたっていないのに、

 なんと、

 『現代思想』7月号臨時増刊号 総特集 震災以後を生きるための50冊

 というのがあって、びっくり。もっともらしい特集だが、なんでもいいから50冊をかき集めて、その内容について、もっともらしい人に、震災にむりやり関係付けもっともらしい解説をしたものであり、じっくり思索にふけって特集を組んだというしろものではない。なにしろ、50冊のトップは

 竹内啓『偶然とは何か』

であり、これを大震災と結びつけるのだから、解説者も苦労しただろう。『海辺の生き物』というのもある。笑ってしまったが、これは図鑑なのだ。これが震災と何の関係があるのかと、解説を読み始めたが、ばかばかしくなって読むのをすぐやめた。紹介されたこの図鑑の著者、小林安雅氏もこんな紹介をされて、うれしいというよりも、怒っているのではないか。この伝では『How to sex』も50冊の中に含まれてもなんら不思議ではない気がしてきて、笑ってしまった。とりいそぎ出版しましたという、なんの思想もない増刊号のような気がした。

 私は、ときどきこの月刊雑誌を購入している。きちんとしたテーマをじっくり掘り下げている特集に感心しているからだが、今回の特集はいかにも安易。考える時間がないから、こんな特集でとりあえずお茶を濁したといえば、怒られるるかもしれない。が、この月刊誌の愛読者としてはなさけない気持ちにさせられた。せめて、じっくり考え、それを濃縮して一年後という節目に出版をしてほしかった。そうすれば、ひょっとすると被災者の心を捉えた特集に仕上がったかもしれない。裏を返せば、そんな悠長さがゆるされないほどに、今出版不況がますます深刻化しているからだろう。

 もうひとつ、このコーナーにいかにもふさわしくない本があった。

 『震災歌集』

というでかでかと署名を表紙に刻印した本だ。本というよりも、一ページに一首収められている装丁。著者は元大手新聞記者だったそうだから、こうした大慌て仕事は得意なのだろう。まじめに詠んだ歌が並んでいるために、余計にこっけいだ。

 アメリカに九・一一日本に三・一一瞑して想へ

という語呂合わせ的なごくごく程度の低い平凡な歌もあれば、

 二・二六事件企てし陸軍将校の幾人(いくたり)かは東北の青年なりき

という、不思議な歌もある。今回の震災と軍事クーデター、それも時代もその背景も違うものがどのように結びつくのか。だからなんだといいたい。とても「震災以後を生きるための一冊には決してならない」と思う。

 この歌集のあとがきには、「今回の震災は  (中略)  心の奥に眠っていた歌をよむ日本人のDNAを目覚めさせたようだ」

 と書いているが、そんな日本人がいないとは言わないが、多くても1人ぐらいだろう。

 とるものもとりあえず、震災を奇貨として、地震直後にともかくあわただしく詠んだのだろう。その目から鼻に抜けるような鋭いビジネス感覚には、のんきなブログ子などは足元にも及ばない。脱帽しなければならない。感心というよりも、えらいともいえる。

 ただ、ふと思ったのは、こんな出版は、今回の震災とはいささかも関係のない人たちののんきな世迷いごとのように感じた。被災者をばかにしているとまではいわないが、どこか非人間的なような気がする。思想もなければ、悲しみに共感する心もあるのかどうか心もとない。あるのはただ、瞬発力に訴えたビジネスだけだと、つついつい言いたくなる。

 思想とか歌集などというのは、技術や科学とは異なり、人間の心の奥にかかわる本であるはずなのに、それがどこか飛んでいってしまっていたのが悲しい。

 たとえば、被害者自身が震災直後にその怒りと悲しみを川柳にした記事があれば、ほかのうちひしがれた被災者を大いに勇気付けることになる。

 たとえば、「週刊ポスト」2011年6月3日号。

 「大津波 みんな流して バカヤロー」

 涙が涸れたその後に

 震災川柳「傑作選」

を特集している。被災者の恐怖、絶望、嘆き、不安がストレートには出さずに、ユーモアくるんでいて、読む人のこころを打つ。

 「ノーメーク 亭主おどろく 電気つき」

 「大津波 マニフェストまで 流し去り」

という川柳には、政治への怒りがにじみ出ていて、力強い。

 記事によると

 「困ってます 救援物資で 嫁がほしい」

 この句にはルーズリーフのメモ帳に書かれた「返句」がつけられていたという。

 「これだけは 無理だと思う 支援用」

 被災者のたくましさ、せつなさが伝わってくる。まだまだたくさん書かれていたが、要するに

 「いずれも目の前に厳然とある悲惨な現実を詠みながらも、どこかそれを前向きに笑うユーモアが感じられる」(同特集)。つまり、震災なんかに、津波なんかに負けないぞ、という心意気が川柳から伝わってくるのだ。

 上記二冊にはそんな心意気は伝わってこない。そこが悲しい。

  津波震災で、世の中になぜ川柳があるのか、その存在意義がわかった。それと、今回の震災では、週刊誌がおおいにその存在意義を発揮したといえそうだ。2011.06.16

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