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偉大なるかな「痕跡本読書会」 あなどるなかれ、コペルニクスもよみがえった

 ときどき、NHK、それもBSで気の利いた番組が放送されているが、金曜日の夜、アルバイトが終わって、赤提灯でワイワイ一杯やった後、自宅に戻って、何気なく見た

 熱中人「こちら痕跡本読書会」

は秀逸であった。痕跡本とは、古本屋に売られる前の持ち主の書き込みやキズのある古本のことで、たいていは、古本屋での売値は安い。読書会を率いるのは、犬山市で、サラリーマンのかたわら、痕跡本古書店を営む古沢和宏さん。30歳。

 どこが秀逸かというと、普通、古本では「書き込み」があったり、キズのあるキズ本は、古本としては価値が低いと見られている。ところが、実は、書き込みやキズ本こそ、価値があるという、いわば逆転の視点に眼をつけた点である。その視点を取り上げて犬山市まで取材に出かけて、映像化したNHKも鋭い。読書会には、古書店主、古書ライターが登場していた。

 ただ、残念なのは、痕跡本の研究がいかに大切かを視聴者にうならせるように納得させる事例が放送ではなかったことだ。たんなる、「お遊び」の域を出ていなかった。

 しかし、痕跡本の研究が、いかに世界の科学史に大きな成果をもたらしたかという事例があるのだ。それは、原題をそのまま日本語に訳した

 『誰も読まなかったコペルニクス  科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的な冒険』(O.ギンガリッチ、早川書房)

である。天動説を地動説に転換させたことで有名なコペルニクスの初版本『天球の回転について』(ラテン語、1543年)には、大量の書き込みがあることを著者は見つけ、世界中に散らばっている初版本を訪ね歩き調査したものをまとめた「冒険」である。これまで、コペルニクスの本は、あまりに画期的でありすぎ、また、数学的にも難しすぎて、また、実証性にもかけていたことから、有力科学史家からは、

 あんなもの、誰も読まずに、地動説を観念的に信じただけ

といわれていた。ギンガリッチ氏は、気の遠くなるようなその調査で、当時の大天文学者たち、チコ・ブラーヘ、ケプラーなど多くの天文学者に詳しく読まれていたことを、初版本や再販本の書き込みの追跡から実証したのである。この本を読むと、共産圏としてのソ連の国立レーニン図書館にも何度となく足を運ぶほどの徹底した調査だったことがわかる。誰が、誰からその本を借りて読んだかもわかったのである。その結果、16世紀ヨーロッパには知的なネットワーク(ギンガリッチは、これを「見えない大学」と書いている)が形成されていたことまでつきとめたのである。

   著者のギンガリッチは、米スミソニアン天文台の天文学・天文学史教授だったが、よくも世界に散らばっている数百冊もの初版本の追跡を根気よく行ったものだと感心した。世界中の図書館、個人蔵書のなかに目指す本がないか、数十年にわたる追跡を敢行したのには頭が下がる。すぐれた書誌学者であったのであろう。

 テレビに登場した読書会も、痕跡本の追跡調査などによって書斎に閉じこもっている学者にはできない足が勝負の在野らしい成果、常識をくつがえさせるような研究成果を世に問うような会に成長してほしい。2011.05.20

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