« そもそも地デジは何のため 「つながる」社会を目指そう | トップページ | 「坂の上の雲」、日露開戦を見て 新史料発見で原作にはないシーン »

倹約とは「絵に描いたタイ」のこととみつけたり 映画 「武士の家計簿」

 遅ればせながら、話題の

 「武士の家計簿」を見た。刀ではなく、そろばんで家族を守った侍

の話である。私の第二のふるさと、加賀百万石の金沢の侍の話である。歴史上の主人公の猪山家の屋敷は、金沢の中心街、香林坊にあった。その後の跡地には10年ぐらいまえまで「ぼたん」という有名喫茶店があった。現在はそれもなくなり、角地のコンビニになっている。映画に出てくる猪山家には、その近くの閑静な武家屋敷の一角にある元下級武士の家屋が利用されていた。私もこの由緒ある貴重なお宅(金沢市長町1丁目、大屋宅)に伺って、ご主人の話を何度か聞いたことがある。

 加賀藩の武士の正月のしきたりとはどんなものだったか

 ご主人にそんな話を伺って、感心した。その場所が今回の映画の舞台だった。

 猪山家は、現代で云えば、当主の年収が1200万円ぐらいで、なかなかの高給取りだ。それなのに、なぜ、そんなに借金まみれになってしまったのか。家禄のある当主のほか、長男、直之もそろばん侍としてそれなりの年収もある。それなのになぜ、たけのこ生活といわれるような借金生活なのか。

 映画は、倹約術については、たとえば、家財処分や、「絵に描いたタイ」など食費の節約などが描かれていたが、このなぜについては、はっきりとは描かれていない。

 原作の「武士の家計簿」を読んでみると、原因は3つあるのだ。

 そもそも農本主義の下では、家禄、つまり知行は物価が上がってもそうそう増えない。商品経済が発達していたにもかかわらず、土地に縛られていて昇給制度がないのだ。

 第二は、身分制度の下では、身分維持のためのいわば「身分費用」が削れない。不合理で削りたくても、武士であるためには削れないのだ。一定家来の確保、参勤交代の参加などの費用は削れない。その上、武士の身分を維持するための年100回以上にもおよぶ元服などの祝儀、付き合いの費用は削ることができない。武士は付き人なしでは町をあることはできないので、家来をなくすことはできない。このように武士は体面が大事なのだ。

 最後は、世襲制下では跡取り、長男の教育費用が、町人に比べて莫大に上る。手習い、剣術修行、「四書五経」などの武士の教養を身につけるための費用などは、削れない。猪山家でも、優秀な経理マンになるには、それ相当の教育投資が欠かせない。

 この映画をみて、思ったことは以下のとおりだ。

 まず、その場を糊塗する大借金生活を抜け出し、それと真正面から敢然と立ち向かおうという一大決心をするのは、大変であるということだ。それも十年以上の耐乏生活だ。たいていはくじけるだろう。倹約しながら、(武士として)誇り高く生きるのは大変なのだ。それにはそれなりの覚悟が必要だと、この映画は教えてくれた。借金の半分を家財道具売却で清算し、残りの借金については、これまでの年利18%から無利子返済に切り替え、これ以上借金が膨らむのをともかく止めることができたのが成功の元だった。これが認められなかったら、猪山家は、再び借金が膨らみ破産したであろう。この教訓は、「借りすぎには注意。ご利用は計画的に」の現代消費者金融時代にも通用しそうだ。

 もうひとつ、生きている時代に過剰に適応することは、変革期には特に危険だということ。新しい時代に柔軟、積極的に対応する心の余裕がないと、家族は守れない。これが明治時代に生きることになった猪山家の成之の成功の秘訣だった。ほかのひとにはない、そろばんの腕があったればこそ、海軍省主計大監という官途につけたのだ。

 全体として、家族を守ることと、天下国家のために奔走することとは、両立するということをこの映画は教えてくれた。これは、原作にはない映画の新しい視点だったと思う。

 最後に、この映画製作の「エクゼクティブ・プロデューサー」が飛田秀一氏であると知って、納得したり、驚いたりした。というのは、同氏は、かねてから、映画館はその地域の文化程度の高さを表すとして映画文化の振興に力を入れたいと抱負を語っていたからである。地元である加賀百万石が舞台のこの映画の制作に積極的にかかわった理由がよくわかる。ありきたりではない、原作のユニークな視点も積極的にかかわろうとした理由ではなかったかと思う。

  もうひとつ。「家計簿」というタイトルからか、映画鑑賞者には中年女性が多かった。しかし、この映画、むしろ男性が見るべき映画ではないか。家計簿改革には、男の決断と覚悟が何よりも必要だからだ。男がそんなことは、という時代はとうに過ぎ去ったと思う。2010.12.20

  追記

 この映画は浜松市で見たのだが、この映画のほかに、もうひとつ話題の映画

 「最後の忠臣蔵」

が上映されていた。役所広司さんが主演。「武士の家計簿」が幕末の話に対して、この映画は、江戸初期の物語。

 討ち入りから16年、生き尽くす。その使命を、その大切な人を、守るために。

という映画だ。こちらは、武士が刀で家族を守った話。

 どうも、目の付け所の良さから評価すると「武士の家計簿」の勝ちだろう。「武士の家計簿」のような映画は、とかく甘口で、その場限りの映画になりがちだが、なかなか鋭い仕上がりだったと思う。監督の腕が冴えたといえよう。2010.12.21 再追記

|

« そもそも地デジは何のため 「つながる」社会を目指そう | トップページ | 「坂の上の雲」、日露開戦を見て 新史料発見で原作にはないシーン »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

猪対策に狼の導入 参照 http://japan-wolf.org/content/faq/

投稿: 名無し | 2013年1月28日 (月) 18時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/50353471

この記事へのトラックバック一覧です: 倹約とは「絵に描いたタイ」のこととみつけたり 映画 「武士の家計簿」:

« そもそも地デジは何のため 「つながる」社会を目指そう | トップページ | 「坂の上の雲」、日露開戦を見て 新史料発見で原作にはないシーン »