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イギリス映画「月に囚われた男」 星新一さんならどんな感想を持つだろうか。

 契約期間3年、募集人員1人、ただし、勤務地は月。

 そんな設定の

「月に囚われた男」(2009年製作、出演は主演のサム・ロックウェル1人)

という、ちょっと変わったギリス映画を、浜松市の市民映画館「シネマ・イーラ」で見た。「このミッションは何か、おかしい」というのが宣伝文句。メジャーではないが、9つの国際映画賞を獲得しているのだから、低価格予算の映画としては上出来だ。いかにも新人監督、ダンカン・ジョーンズ氏らしい。「卓越したアイデア」が評価されたのか、監督賞も獲得した。

 近未来-。

 地球に必要なエネルギー源を採掘するため月にたった1人派遣させられた男、サム。会社との契約期間は3年。月での話相手は1台の人工知能をそなえたロボットのみで、地球にいる家族などへの電話など、地球との直接交信はできない。そして、契約期間が来て、地球に帰還する直前になって、サムの周辺で奇妙な出来事が次々に起こる。「なぜ、自分しかいないはずの月に、自分と同じ顔の人間がいるんだ?」とサム。

 ちょっとホラー映画のようだが、ぼんやりこの映画を見ていると、なにがなんだかよく分からない。見終わって、反芻すると、ようやくそのおどろくべき仕掛けがわかるという仕掛けである。

 そんなことから、この映画を見終わっての感想は、ショート・ショートの名手と言われた今はなき

 星新一さんなら、どんな感想を持つだろうか

というものだった。星さんには「最後の地球人」という名作があるが、この映画は

映画版ショートショート

ではないかと感じた。

 SFなどの謎解きの結末、仕掛けをしゃべるのはマナー違反かもしれないが、簡単に小生が咀嚼した結論を言うと、

 最初に月に送り込まれた契約者(初代サム)は本物の人間で、契約3年で無事、地球に帰還した。月滞在中は、家族との直接対話もテレビ電話などを通じてできた。生まれたばかりだった子どもも3歳になっていた。しかし、サムの交代要員(2代目サム)は、ほんもののサムのコピー(クローン)人間。初代サムの月滞在中のすべての記憶を話相手のロボットが保存する。そして、それを月滞在中に初代サムからつくられたコピー肉体にインプットして再生する。クローン人間の寿命は3年しか持たないので、3年ごとに、月基地にたくさん貯蔵してある初代サムのコピー人間に交代させるというわけだ。こうしておけば、地球との交信がなければ、二代目サムに初代の地球とのテレビ電話交信記録をみせても、二代目サムは違和感はない。地球にいる初代家族の映像を見て、二代目も初代同様、早く地球に帰りたいとさえ、思うだろう。初代が月に来て、3年+3年の6年間がまもなくすぎようとしているのに。

 この映画では、肉体と記憶は、コピー人間自身には気づかないが本人が体験した記憶ではなく、初代からコピーされたもの。しかし、悲しい、楽しいといった感情などの精神活動は本物としている。

 この映画では、ある事情から、サムが職場の何かがおかしいと感じて、地球の家族との直接交信しようとし、成功する。すると、これまでに見せられた家族映像(実は初代サムの家族)には、2、3歳の娘だったのに、直接交信、つまり現実では、その娘は15歳。娘は母親はずいぶん前になくなったという。父親どうしたかと娘に聞くと、今、家にいるという。「パパ」と電話口から父親(初代サム)を呼ぶ。これに月から直接通信していた二代目(実は、5代目サム)が呆然とする

 これにより、主人公は、真実を知る。自分が初代のほんもののサムの5代目コピー人間であることを。

 この映画は、用意周到に準備されなかったのか、細かいところで、さまざまに納得しがたいことが多い。しかし、着眼点としては、

 地球上の現実の情報を遮断できる月の裏側では、こうしたコピー人間を使ってただ働きさせることが原理的に可能

という点が面白い。月と地球に要員交代のための3年後との輸送宇宙船は必要ない、地球での宇宙飛行士の訓練も必要ない、しかも、寿命三年とは言え、コピー人間を期間社員として、「使い捨て」にできる。二代目以降は賃金の支払いすら、いらない(3年の寿命がきたら地球に帰還させるとして、カプセルに入れて、そのまま地球には戻さず、月で廃棄すればいい。初代の本物の人間ならともかく、初代から月でコピーされた人間は、地球にはいかなる関係者もいない)。コピーを月基地にたくさん保存しておけば、労働力不足は生じないだろう。

 この映画は、現代の大企業の「使い捨て」期間工を痛烈に批判しているとさえ、思えてくる怖い映画だ。

 この映画には、さまざまな致命的ではない欠陥があるが、クローン技術などさまざまな生命操作の時代に入りつつある今、

 考えさせる怖い名作

としておきたい。

たとえば、1度きりのかけがいのない人生とは何か

そんなことを考えさせる。それには、まわりからの情報を取り込んで、主体的に生きることだ

とこの映画は示唆しているようにも思える。

 さすが、クローン羊「ドリー」を生んだイギリスらしい映画だ。ハリウッド映画では、もう少し大掛かりに、しかも分かりやすくするだろう。しかし、その分、考えさせることの少ない作品に仕上げるだろう。小さな欠陥がかえって鑑賞者にいろいろと考えさせる不思議な作品だ。2010.09.23

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