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坂本竜馬と土方歳三の生き方 「燃えよ剣」を読んで

 司馬遼太郎さんの

 「燃えよ剣」(文芸春秋社、上下2巻)

を読んだ。若いときに読んだものを本箱から取り出し、再読してみたのだが、新撰組副長土方歳三(ひじかたとしぞう)の生涯を描いたものだ。坂本竜馬と同じ年(天保6年=1836年)に生まれ、幕末に、30代前半に函館五稜郭から覚悟の出戦で戦死している。龍馬もまたこの2年ほど前に暗殺されている。

 上下2巻を読んだ感慨を一言で言えば、

 自分の考え方を変え、時流に乗って走り抜けた竜馬も、時流にさからう選択しかなかった歳三も、ともに、自分を信じて最後まで目いっぱい人生を生きた男だった

ということだ。

 晩年、それを静かに見守った女性もいた。

 龍馬には、おりょうが、歳三には、お雪

が、かれらの生き様を見届けた。歳三にしてみれば、

 節義を通す。世の中の風向きが変わったからといって変節しない。それが武士であり、男だ

 と言いたいだろう。

 龍馬の妻、おりょうについては、このブログでも、「波枕」という小説があり、以前、紹介した。

 「それからのお雪」

については、いまだ小説化されたものはないようだが、女たちのそれからの生き方として小説のテーマになると思った。

 司馬さんの小説の最後によると、明治十五年の青葉のころ、函館の称名寺に歳三の供養料をおさめて立ち去った小柄な婦人があったという。司馬さんは小説で「お雪であろう」としている。

 司馬さんの小説に注文をつけるのは、はなはだ読者としては気が引けるが、余韻を残すよう、この

 お雪であろう。

 で、この小説を終えてほしかった。実際の小説は、このあと2行あるが、カットしたほうが、今の私にはよほどうれしい。2010.09.26

 付記。2010.09.26

  龍馬や土方が生きた実際の幕末がどのようなものであったかについては、

 近著「攘夷の幕末史」(町田明広、講談社現代新書)

が参考になる。

 この本は、結論的に言うと、今まで分かっているようで、理解していない幕末の論争をズバズバ書いていて、面白い。定価720円の価値はある。ただし、著者の日本語の書き方が、ごちゃごちゃしている上に、論理があちこちに飛ぶなど、分かりにくいというのが欠点。

 面白い点を挙げると、幕末の論争のポイントは

 大攘夷、つまり、幕末の現状の武備では、西欧列強と戦えば必ず負けるとの認識の下に、砲撃など襲来でもないのに来航に対して即刻打ち払うなど、杓子定規で無謀な攘夷実行を否定、無二念打払令(1825年にできた国是)を弾力的に運用する。具体的な運用策としては現行の和親、通商条約をとりあえず容認する。容認で国力養成に時間を稼いで、その上で海外に進出、あるいは浸出しようという考え方(条約容認派=幕府側)

 小攘夷、つまり、勅許も得ていない現行の通商条約を即時に、しかも一方的に破棄し、それによる対外戦争も辞さないとする過激な考え方(即時条約破棄派=朝廷、長州側)

との対立であると結論づけている。

 言い換えると、幕末の政争の主たる原因は

 攘夷の実行(打ち払い)をめぐる策略、謀略である。つまり、外国船が武力でもって来襲する場合は、1825年に国是となった無二念(無条件に)打払令により、即刻打払うが、そうでもない場合は、無謀な攘夷の回避など慎重に対応するか、それとも、単に通過するだけでも砲撃を加えるかの違いだと言うのだ。

 攘夷をめぐっては、これまであまり言われてこなかった事件として、

 朝陽丸事件(1863年)

をかなり詳しく、しかも具体的に、こまごましすぎるくらいに取り上げている。要は、下関海峡をはさんでの大攘夷(幕府、小倉藩)と小攘夷(長州藩)との大激突騒ぎであり、攘夷をめぐる政争がこの事件で沸騰点に達したという。

 こうした現実の中で、ヒーロー伝説とも言える、事実ではない龍馬伝説も生まれているという。小説に書かれていることと、実際の歴史的な事実とは、当然ながら、区別しなければならないことも、この小著から分かる。

 坂本龍馬は、町田さんによると、大攘夷の立場の先駆者

であり、直接証拠や状況証拠を挙げて

 「朝鮮侵略の第一歩として、竹島(韓国領の今の鬱陵島)を狙っていたことは自明」

とまで断定的に書いている。龍馬の考え方は、国際主義、平和主義のようにとらえられているが、この指摘が正しいとすると、どうもそうでもないらしいことが分かる。

  それにしても、この本は、日本語が読みずらい。司馬遼太郎さんの文章とまでは言わないまでも、意味がもう少し取り易い達意の文章であってほしいと感じた。

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コメント

まー様へ(* ̄ー ̄*)sun

町田さんの本は読みずらいという御指摘ですが、学術書として書かれており、意味する所を正確に表現するために言葉が多く、文章が長くなってしまいます。小説とは違います。
どうか御理解下さいませ。

投稿: kazuo | 2010年12月26日 (日) 20時58分

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