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映画「BOX 袴田事件 命とは」 人をどう裁くか、裁判官の苦悩

 静岡県清水市(現・静岡市清水区)で起きた強盗放火、1家4人殺し事件、袴田事件を扱った映画

 「BOX」(高橋伴明監督)

を、この事件で死刑が確定した袴田巌の地元、浜松市の映画館「イーラ」で見た。上映後、初日とあって高橋監督、榎本館主、死刑囚の姉袴田秀子さんの舞台あいさつ(観客との交流会)があった。この映画の制作の目的は

 今始まった、裁判員裁判制度について、この事件を通して、あるいはこの事件を材料にして、その危うさを知ってもらうのがねらい」

と話してくれた。プロのまじめな裁判官ですら、人を裁くことは、とりわけ否認事件では、いかに難しいか、それを知ってほしいということだった。したがって、監督自身は、裁判員制度には反対、つまり、廃止を支持しているという。

 この映画では、警察、検察の取調べで自白を迫る暴力的なシーンが執拗に出てくる。これを取り上げて、警察・検察関係者からは、事実を捻じ曲げており、「反社会的な映画」ではないかとの批判もあるらしい。しかし、監督自身はそんなことは気にしていない。むしろ、そうした批判があってもいいというぐらい自信を持っている。

 それは、監督自身が学生時代に逮捕され、手錠をかけられ、服役した時の体験で裏打ちされているからだろう。決して、暴力的な取調べは、ことさらに誇張したものではなく相当程度事実に近いものであることを身をもって知っているという。自信がある。

 作品の出来は、今ひとつであったと思う。ただ、袴田巌役の新井浩文は好演したと思う。その面を見ただけで、いかにも殺人犯らしい風貌。しかも、演技もうまい。そこにいるだけで存在感がある。そんな新井に、実は無実(と監督自身が考えている)死刑囚役をやらせている。ここに映画としてリアリティを感じた。

 それに対して、主役の熊本典道裁判官役の萩原聖人は、まったくばかばかしいほどの演技だった。ぺらぺらの正義心で、リアリティがない。うそっぽい。これでは、本職の裁判官もあきれるだろう。

 冒頭10分のごだごたもいらない。すっと事件に入るべきだった。また、ラストの5分もいらない。意味不明の裁判官と袴田巌のかけあいというか、じゃれあいというか、そんな映像を流しているが、それまでの緊張感がいっぺんに吹き飛んで、ふやけた映画になってしまった。

 上映後にこのラストシーン5分の意味について、高橋監督に直接、糺すと

「人を裁くことは、同時に裁く裁判官自身も裁かれていることを象徴的に表現した」

という趣旨の説明だった。どうも、そんなふうには小生には伝わってこなかった。

 それと、最後に、長々と字幕がでてきて、その後、袴田事件がどうなったかをくだくだ説明しているが、これは余計なことではないか。映画の印象が薄れるばかりか、何を訴えたいのか、あいまいになってしまった。

 袴田巌死刑囚は無罪であると主張したいのか

 それとも

 自白調書の信用性がいかに危ういもであるかを印象付けたいのか

 それとも

 人を裁くということはいかに難しいかということを主張したいのか、

 だから、裁判員制度は、かえって冤罪を生むと主張したいのか

どうも、直接、上映後、監督自身に問いたださなければならなかったのは残念だった。どうも、主張性のある映画をつくろうとしたという制作意図の割には、上映された映像からは、その主張が明確には伝わってこなかった。

 このブログでも取り上げた主張映画「命の山河」のほうが、映画の出来は稚拙だが、まだ主張が明確に伝わってきた。2010.08.01

 追記

 上映後の交流会で、袴田巌死刑囚の姉、秀子さんは、最近の巌の様子について、東京拘置所に面会に行ったことを話していた。

 7月14日に面会に行ったが「言うことは(相変わらず)トンチンカン」。その後の面会では「面会拒否」。その後も午後に支援者(新田)が面会に行ったが「面会拒否」。このときは、民主党政権初の死刑執行(東京拘置所)の日だったので、秀子さんの推測では巌死刑囚も神経質になっていたのではないかとのことだった。

 データ 

 この日の2人の死刑執行で、現在の確定死刑囚は、2人減って

 107人。

 千葉景子法務大臣は死刑廃止論者。死刑執行を機会に

 「死刑制度の存廃について、今後、国民的な議論が必要」とのコメントを記者会見で述べている。

  ただ、今年(2010年2月)の内閣府世論調査によると、死刑制度に賛成と「やむを得ない」を合わせると

 85.6%。

 こうした中で、死刑廃止の世論形成は相当困難だろう。

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