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内視鏡検査体験記 便は大腸がんからの「血塗られた手紙」である

 会社の定期健康診断(人間ドック)で、

 検便で二度とも潜血反応が基準値をこえている。紹介状を持って、専門医に精密検査をしてもらうように

との指示を受けた。紹介状は1通1200円+消費税だった。還暦を過ぎてはいても、初めての経験だ。日本人の2人に1人は、大腸がんなどなんらかのがんにかかるし、3人に1人はなんらかのがんで死亡する。

日本では大腸がんは年々増加し、厚生労働省の推計では、2015年には男女ともに、がん死因の1位になるという(現在、がん死因の1位は肺がん、2位は胃がんで、大腸は3位)。

  かかる患者数では、最近では、大腸がんが第1位。第2位は胃がん、前立腺がんは第3位。死因と合わせて考えると、大腸がんは、肺がんや胃がんに比べて、かかっても治りやすいがんということになる。

 大腸がんの最もできやすい部位は、肛門から10-20センチのところの直腸だという。

 いよいよ小生にもおよびがかかったかと覚悟した。しかし、痔(じ)の気があるから、潜血があったからと言って、大腸がんとは限らない。が、ものはためしとばかり、内視鏡検査を受けることを決心した。

 気持ちを明るく切り替えることが未来を開く元である

この小生の信念にかけた。会社のかかりつけ医が書いてくれた紹介状先のクリニック(浜松市)に電話をすると、まず、紹介状と保険証をもって診察予約を取った。その日に紹介状を差し出すと、

「まず、直腸を触診します」

と言って、ベッドに横向きになると、肛門から医師が指を突っ込んで肛門や肛門に近い直腸の部分を指でぐるりと回して、診察した。

「これといったポリープはないようです。しかし、より詳しく直腸、大腸、小腸を検査するために、内視鏡検査を」

となった。検査日を予約しようとしたら、なんと2カ月も先になるという。それくらい、予約がいっぱいなのだ。しかし、うまい具合にキャンセルがあり、10日後に精密検査と決まった。

 第一段階の診察料は、3割保険がきいて、約4000円。

 この日は、血液採血の検査も行われた。

 検査日の前日夜10時ごろに、小腸・大腸の中をきれいにするための下準備用下剤として渡された

 プルゼニド(4錠、ピンク色)

 コップ一杯にといたラキソベロン水液

を飲んだ。夜9時以降は絶食というのは、通常の健康診断と同様。検査当日、朝起きると、さっそくトイレに行きたくなった。2度行く。さらに、何の薬かわからなかったが、指示されたとおり、

 ガスモチン3錠

を飲んだ。朝食はとらず、水のみを飲む。絶食して午前8時半にクリニックへ。 

  ここまでが第一段階。本番の第二段階の内視鏡検査は以下の通りだった。

 朝8時半から、本格的な下剤を飲み始める。

 900ミリリットルの下剤を約30分かけて飲む。これが大変。甘い味付けがしてあるものの、なかなか飲めない。説明では「腸内をきれいにする飲み物」という。緊張感をとこうとして、クリニックは全館、常時、クラッシックが流れていた。検査センターには10数人が一度に検査をするために、みなさん苦心して飲んでいた。

 飲み終わると、ほとんど10分置きぐらいに便意、というか下痢状態になり、それぞれ個人に割り当てられたトイレに行って、排便する。ここで感心したのは、看護師がその便の出具合を、排便者がトイレを出た後に、入れ替わりにトイレに入り、いちいち便器をのぞいて詳しく検査し記録して、完全に便が腸から取り除けたかどうか判定していたことだ。いずれも若い女性看護師である。仕事とはいえ、毎日毎日、他人の便の出具合を検査するというのは、辛いだろう。小生なら、とても続かない。

 ふと思ったのだが、この下剤、世の便秘に悩む人には朗報だ。なにしろ、飲んだらすぐにトイレに行きたくなる。これは便利だ。

 2時間ぐらいで、どの人もすっかり腸内が空っぽになるらしい。

 そしていよいよ、午後から内視鏡検査。

 いよいよ肛門から内視鏡を突っ込んで検査すると思ったら、そんな乱暴なことはしない。まず、更衣室で、着替えをする。パンツを脱いで、おしりの肛門あたりに切れ込みがある紙パンツをはく。そして、あおむけにベッドに横たわる。十数人が2台の検査室前に横たわる。検査自体は10分ぐらいだそうだが、患者はその間、点滴に入れられた睡眠剤でほとんど瞬間的に眠ってしまうので、どんな検査をしているか、分からない。分からないうちに、検査は終了となる。この点が、検査行程がテレビモニターに映り出されて患者本人にも見える胃カメラの内視鏡とは違う。

 検査終了後、検査医師による説明。小生の場合、良性のポリープが直腸にあった。

 まさに、最もよく発見される位置に、ポリープ

があったのだ。5ミリの大きさだった。そのカラー写真も見せられて、内視鏡で手術して、取り除いたという。そのカラー写真は患者にも手渡されて、持ち帰ることができた。ポリープを切除する前、手術後の様子が映っていた。手術後には、クリップのようなもので患部がクリップされていて、完治すると、それが自然ととれて、便と一緒に輩出されるという。つまり、傷口をふさぐ止血クリップ(1本5000円)。

 そんな説明を聞いて一安心。良性ポリープは念のため、細胞検査(生検)をして、がん細胞でないことを確認するという。通知は、2週間後に、また、予約して、受診。担当医師の最終的な診察を受けて、無事、終了となるらしい。

 この日の内視鏡手術(良性ポリープ1カ所)代は、使用したさまざまな手術材料費も入れて、3割負担の保険でも

 手術代=21000円

だった。

  支払って、家に帰り、安心したせいもあるが、ポリープのほか、自分の尻の穴のカラー拡大写真をしげしげと見てみた。確かに痔(じ)であり、ここから血液が漏れだして、検便で潜血反応が出たのだろう。医師によると、小生の年齢で、痔(じ)に悩まない人は少ないという。多分、そうだろう。

 それにしても、生涯、初めて、自分の尻の穴のカラー拡大写真をみて、汚いということよりも、正直不思議なものをみるような感情にとらわれた。もう一組、大腸の内部のカラー写真が添えられていたが、これはどうということのないただの管内部だ。自分の大腸の内部を見たのも初めてだった。

 この写真を見て、こんどは痔(じ)の治療かな、とイヤな気持ちになり、早めにベッドに入った。

 翌日、つまり、内視鏡検査・手術の翌日、術後の状況を医師の診察あるいは問診により確かめるために、また、来院し、

 診察費=390円

支払った。

 これが、一連の大腸検査(内視鏡検査)の一部始終だが、最終的な検査結果は、2週間後である。交通費も含めて総額は3万円近くかかった。しかし、内視鏡では取り除けないがんだと、大事になったところだ。別途、後日の手術(腹腔鏡下手術など)で手術代がかかるから、経済的にも大変だ。

 ただ、この検査後に毎食、3回にわたって飲むように指示された薬があった。

 アドナ(AC-17)錠 30mg 毛細血管を補強し、抵抗力を高める止血剤

 トランサミンカプセル 止血剤

となかなか慎重である。このほかにも、一週間にわたって毎食飲むように指示された粉薬(ラックビー微粒 1g グラニュー糖 ? )を渡された。説明書きには、下痢などを改善し、腸内の有害な菌の増殖を抑え、腸内環境を整える整腸剤とあった。

 こうした慎重な検査後処理の背景には、どうやら、手術に伴う副作用の抑制があるらしい。

 少し調べてみた。

 国立がんセンター がん予防・検診研究センターの検診研究部長、斎藤博氏の

 近著「がん検診は誤解だらけ 何を選んでどう受ける」(NHK出版)

によると、内視鏡検査による大腸がん検診について、

 「大腸の内視鏡検査はがんを診断するための検査としては(腹部CT検査よりも 本欄記入者の註)精度が最も高い大腸がんの検査法」

と書かれている。だから、斎藤氏は、50歳-70歳の人はこの検査を、安全性が担保された病院で、一度受けることを推奨している。

 それでは、なぜ、そんな大腸検査を、健康政策としての、いわゆる「対策型検診」に組み込まれていないのか、不思議だ。現在は、任意型検診として受ける事になっている。その理由は、この本によると、検査そのものや、下剤に「重大な副作用があり、不利益が大きいから」だという。「中には命にかかわるものもあります」と指摘している。胃カメラよりも危険が伴うらしい。それで、検査に入る前に

 検査承諾書

を取った訳なのだろう。ただ、有効性がしっかりと確立している便潜血検査を前提にしており、また、内視鏡検査自体も有効性が確かめられているという。つまり、もっと不利益を最小限に抑えられるようにになれば、対策型検診に取りいれられるのだろう。

 ただ、大きなメリットは、内視鏡検査で異常がなければ、つまりがん細胞が見つからなければ、「5年間はリスクが変わりない」という。つまり、5年生存率が極めて高く、5年間は安心なのだという。これは大きい。

 内視鏡検査は、近い将来、いずれ、対策型検診として通常の検診に取りいれられるであろう

ということが分かった。

 感想。

 まず、紹介状で、いい医師を紹介していくれるかかりつけ医師を持つことだ。次に、いい検査機器もさることながら、診断能力の高い医師を探すことだ。それには、流行っている病院を選べ。ヒマな病院はまずダメ。そんな基準で病院を紹介してもらったのは、当然ながら、正解だった。

 内視鏡検査の前、朝、時間があったので、クリニックの近くの西ヶ崎八幡神社に、しゃれではないが願(がん)かけに行った。境内の桜は満開だったから、きっとがんではないとなんとなく無理矢理確信した。願いを聞いてくれたので、八幡様を信じる気になった。

 もう1つ。大腸がん検査の医師(副院長)は、元静岡県立総合病院の消化器センター外科医長だった人で、クリニック内の掲示板によると、

 大腸がん手術症例 350例(年間75例、うち腹腔鏡下手術25例)

 胃がん手術症例 120例 

これが多いのか、少ないのかはよく分からないが、これくらい症例を重ねていれば、十分信頼できるように感じた(全国には、何千例も大腸がんを処置してきた「名医」もいるらしい)。このくらい経験があるのであれば、大腸がんを見逃すことはないだろうと思った。こうしたことを堂々と掲示するぐらいの医師であってほしい。なお、この医師は

 セカンドオピニオン外来

も担当している。腕がいいからだろう。ただし、30分で5250円だ。5000円で命が助かると考えれば、安い。

 余談を1つ。

 この内視鏡検査を受けた翌日の

 4月5日付静岡新聞によると、小さな記事だが、

 職場がん検診「希望」は97% 官民プロジェクト調査

というのを見つけた。職場でがん検診があれば受けたいという人は97%もあるのに対し、実際に企業でがん検診が行われていると回答したのは、わずか2割強。(付記 厚生労働省によると、最近の40歳以上の日本人のうち、大腸がん検診(便潜血検査)を定期的に受けているのは、男女平均して約25%)

 これも問題だが、さらに問題なのは、94%の人が定期的にがん検診を受けるべきだと思ってはいるものの、つまりわかってはいるものの、実際に受けている人は13%に過ぎないという数字だ。強制力がないと受けないのだ。企業に検診がなくても、自治体も住民検診をやっているのだから、その気になれば、がん検診は受けることができる。しかし、会社の検診のように強制力が働かないので、なかなか、がん検診を受けないのが実情だろう。このことは会社勤めをしていない家庭の主婦には健康診断を受けていない人がかなり多いことをうかがわせる。本人負担があるから、余計に受けないのかもしれないが、自己責任とばかり見過ごすわけにはいかない。進行がん、末期がんの医療費となれば、国の、つまり税金の負担は重い。

 そんなことを考えさせられた内視鏡検査だった。こんなことがわかったたげでも、締めて3万円は案外、安かったかも知れない。それにしても、八幡さん、ありがとう。桜咲く。

 今年の私の10大ニュースの1つとなるだろう。あと5年は大腸がんで死ぬことはないことが分かったのだから。乾杯といきたいが、実は、検査後、2週間は酒を控えよとの指示が出ていた。残念。いや、ノンアルコール・ビール(キリンフリー 0.00%)があるか。2010.04.05

  追記 2010.04.18

  良性のポリープ(大腸腺腫)だったが、検査後、2週間後の4月18日に、生検結果など正式な検査結果が受け持ち医の柏原医師から伝えられた。

 良性から悪性の順に、グループ1から5までの段階で、内視鏡で切除したポリープは「最も軽いグループ1」だった。グループ5というのは、大きな大腸腺がん。

 これをもう少し詳しく言うと、大腸がんは多段階発がんであり、次第に遺伝子に傷がつくことでがんに成長する。

 正常細胞のAPC遺伝子が傷つくとグループ1になる。それが、さらに、k-ras遺伝子が傷つくと、ポリープはさらに大きくなり、この段階で、p53という遺伝子が傷つくと、ついに、がん化して、がんになる。この3遺伝子が段階的に傷ついて、がん化する。

 APC遺伝子 ⇒ k-ras遺伝子 ⇒ p53遺伝子

と段階を踏んで、がん化するという。

 がん化したポリープが、2センチ以内なら、クリニックの内視鏡で切除。それ以上大きくなると、浜松医大で開腹手術で切除するという手順なのだ。

 大腸がん予防薬はないが、食事療法で和食に心がける。しかし、高齢者ではこれまでの食習慣により、いまさら食事を変えても大腸がんの発生をとめることは難しい。それよりも、がん発生の初期、あるいは手前で内視鏡などで取り除くことが大事であると、医師からアドバイスを受けた。

 厚生労働省は、便潜血検査を3年に一度受診し、陽性の場合、内視鏡検査を受けること

と指導しているらしい。しかし、

 医師会側は、毎年受診すること

としているらしい。グループ1から5に2、3年で移行することがあるからだという。その間、見落としもあるからであり、商売としても、受診は頻繁であればあるだけ結構だからだろう。

 これだけの説明を受けて、医療費3割自己負担で

 510円

 だった(医療費は171点、つまり1710円。再診料である)

  クリニックを出て、境内のサクラが葉桜になってしまった近くの八幡神社に、無事検査が終わったことを報告し、快晴の空の下、帰途に着いた。

 血塗られた便は、痔または大腸がんからの手紙である 中谷便吉郎

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