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「ここに記者あり」 生涯一記者、村岡博人の78年

 生涯一記者の物語、と聞けば、うんざりで

 「ああ、また、わしゃえらかった」

の類の自慢話、ホラ話かと思う人も多いだろう。事実、元共同通信記者が大先輩の戦後取材史についてまとめた

 「ここに記者あり !  村岡博人の戦後取材史」(片山正彦、岩波書店)

も、仲間ぼめも加わって、余計にそんな印象を持つかもしれない。否定はしないが、後輩とはいえ、複数の第三者が本人にもインタビューしてまとめただけあって、なかなか面白い。

 10日付静岡新聞に「沖縄密約 存在認める 東京地裁 文書開示を命令」

というトップ記事が出ているが、この沖縄返還をめぐり米軍用地の原状回復費の日本側肩代わり問題のそもそもの発端にも、村岡さんはかかわっていることが、この本に具体的な様子書かれていて、興味深い。原告団は毎日新聞の元記者西山太吉さんら。

 同書によると、村岡さんは

 民主主義を守る番犬として権力を監視し、どんな誹謗中傷を受けても、不正に牙を剥くことを止めなかった男

として紹介されている。勇ましいのだ。この本によって

 記者の仕事とは何か、取材とは、ジャーナリズムの役割とは何かを問いなおす

という。とにかく、カッコいいのだ。しかも、共同通信に入社する前は、なんとサッカー日本代表の選手、しかもゴールキーパーだったというのだから、格好がよすぎるのだ。まぶしいのだ。

 それでも、一日かけて、じっくり読んでみた。印象は、権力を監視し、不正を暴いた正義の味方、国民の味方だったことは、間違いないのだが。はて、さて、彼の独自のスクープとか、生涯のテーマはなんだったのか、というのが、今ひとつ、はっきりしなかった。出現した事件を追い回したというだけではないのか。自ら問題意識を持って奔走したというのは、そう多くはなかったように思った。いかにも、新聞記者らしいとは感じたが、何か、新しい視点を提示したり、成し遂げたと言うものはないように感じた。

 あえて言えば、同書にもあるが、

 ライフワークといえる取材テーマは、在日韓国・朝鮮人の人権擁護や日朝国交正常化といった「チョーセン問題」と、金権政治を批判・追求し、腐敗に切り込む「政界浄化」

だったようだ。帯で「権力の闇を追った戦闘的リベラリスト」と、これまた共同通信元編集局長でジャーナリストの原寿雄さんが激賞している。「彼のような記者たちが、戦後ジャーナリズムの正義を支えてきた」とも。

 この推薦文が的を射ているかどうかはともかく、

 新聞記者といえば、社会部記者(事件記者)、政治部記者

のことを指すことが多いのは事実。

 先の西山さんには、「わしゃ、えらかった」という類の回顧ではなく、西山さんにしか書けない、しかも

 人には恥ずかしくて言えない悔悟と苦渋のジャーナリズム

について、勇気を持って書いてほしい。一言で言えば

 人間の顔をしたジャーナリズム

である。それが西山さんの歴史的な使命だと思う。「わしゃ、えらかった」はもう結構。

 さて、同書と似たような「正義の味方」記者について書かれた本は、ざっと本屋をのぞいてみた

だけでも、以下のように沢山あった。ただ、これほど沢山の正義の味方が輩出したのにもかかわらず、一向に正義が実現したようには感じられないのはなぜだろうとは思った。負け犬の遠吠えだからだろうか。

 「黒田清  記者魂は死なず」  報道とは伝えることやない。訴えることや

 「ペンの自由を貫いて」 帯=「昭和」を駆け抜けた反骨記者の生涯

 「記者風伝」 帯=彼らがいて新聞は輝いた

 「記者魂 君は社会部記者を見たか」 

 「我、拗ね者として生涯を閉ず」(東京読売社会部元記者、本田靖春)

    この本は、すごい。一読の価値は十分ある。両足切断、右目失明、大腸がん闘病記。

 これとはうってかわって、軽いのは

 「こちら石巻さかな記者奮闘記 アメリカ総局長の定年チェンジ」(高成田亨)

 「毎日新聞社会部」 帯=猛者事件記者たちの迫真のドキュメント

 「徹底検証 日本の五大新聞」 

 そのほか

 「闘う社説」(朝日新聞論説委員室)

 「地方紙の研究」

などもある。

 いずれにしても、社会部、政治部が中心。唯一つとして、科学ジャーナリズムを取り上げたものがない。これには、科学ジャーナリズムがまだ、ジャーナリズムとして、業界からも、社会からも認知されていないことがあるのかもしれない。

 政治部や社会部と科学記者、あるいは科学担当論説委員との間の確執をテーマにした現代ジャーナリズム現場、あるいは小説は新鮮かもしれない。現代的なテーマである。2010.04.11

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