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「人生に乾杯!」 怒りの高齢者を元気にするユーモア

 かつては社会主義の国だったハンガリーの映画(2007年にハンガリーで公開)にも、こんなにユーモアがあるとは、知らなかった。しかも、年金生活者の老夫婦が生活苦の揚げ句紳士的なやり方ではあるものの連続銀行強盗をするという物語なのに、駐日ハンガリー大使館が推奨しているのだから、面白い。強盗のたびに、ニュースを聞いた国民が拍手喝采するという設定なのだ。

 上映しているというので、浜松市の中心街にある浜松市民映画館「イーラ」(有楽街通り)に出かけた。資本主義の国になったとはいえ、まさか、銀行強盗をほめるわけにはいかないのだから、ラストシーンがどうなっているか、注目した。

 この映画は、社会主義の時代にあんなに国家につくしたのに、一向に楽にならないどころか苦しくなるばかりの今の生活を描いている。かつての社会主義に対する怒り、資本主義に今更ついていけない年金生活者の心情を描いている。ついに、資本主義に抵抗感のない若者の裕福な生活をみるにつけ、そのあまりの不公平感に対する「失われた世代」の怒りが爆発、銀行強盗に走る。

 主役の老人の夫は81歳、妻は70歳。夫は旧ソ連共産党幹部の運転手だから、運転がうまい。車は旧ソ連のリムジン、黒のチャイカ、GAZ14。

 問題のラストシーンは、追い詰められた老夫婦は、人質を解放し、二人だけで取り囲まれた警察陣に自慢のチャイカで突っ込み、自爆するというものだった。これだとタイトルの

「人生に乾杯!」

とは、ならない。おかしいな、変だなと思った。ところが、最後の最後で、実は、老夫婦はチャイカには乗っておらず、そのかわり、大きなぬいぐるみのクマが運転していた。それを捜査陣は老夫婦と勘違いする。その間に、盗んだ大金とともに、老夫婦は捜査網をかいくぐり、どこかに消えてしまったのだということが、ちらっとした映像で分かる仕掛けになっている。台詞も説明もない。そのことに気づいて、映画を見た人たちは、なんだか、

 紳士的な銀行強盗の老夫婦に乾杯をしたくなる

 年老いても、二人で協力するならば人生は変えられる

そんなメッセージが言葉はなくても、ラストシーンから伝わってくる。捜査陣も、老夫婦の「勇気ある行動」に内心では応援しているかのようだった。この映画の持つ高度なユーモア精神、社会批評精神がそうさせているのだろう。ヨーロッパ映画の粋なところだ。

 久しぶりに、社会性があり、高い質のユーモアのある映画を見た気になった。ハリウッド映画ではこうはいかない。2009.10.19

  この映画を見て、5年ほど前にNHK「アーカイブス」だったか、スペシャルだったか、

 「ヨーロッパ・ピクニック ベルリンの壁はこうして崩壊した」

というのを思い出した。ハンガリーとオーストリアとの国境の町、ショブロンでの東西住民が集っての交流イベントが、1989年11月9日のベルリンの壁崩壊のきっかけとなったというものだ。このイベントの最中、東ベルリンから沢山の市民が押し寄せ、オーストリアへ、国境を越え、そこから西ドイツに移住したという話である。この出来事には、西側と綿密な連携を図るなど、ハンガリー共産党幹部たちによる周到に準備された極秘作戦があったという。

 このベルリンの壁崩壊を引き起こした歴史的な「小さな門」の出来事は、1989年5月に起きた。東ドイツ市民が大挙してハンガリーに流入、ついに、東ドイツ当局は、この小門でなくても、国境を越えて西ドイツへの移動を許可せざるを得なかった。ベルリンの壁の崩壊である。

 だが、20年後の現在まで、東欧は欧州連合(EU)へ次々と加盟、「新しい欧州」となった。しかし、世界経済危機で苦境にあえいでいる。極右の台頭もあるらしい。「古い欧州」時代に比べて、経済的な格差は拡がり、EU不信も深まっている。政治統合の足がかりとなるはずの基本条約、リスボン条約が間もなく成立する。しかし、東西欧州統合の道は、今なお遠いと言えるだろう。そんなことを

「人生に乾杯 !」

の映画は教えてくれた。つまり、人生に乾杯とは言えても、苦しい生活を強いられているハンガリーの年金生活者にとっては

「EUに乾杯  !」

とまではいかないのだ。2009.10.22

追記 2009.11.25

 この「人生に乾杯!」の映画について、その米国版のような映画が

 パブリック・エネミーズ(ジョニー・デップ主演)

 このチラシには、伝説の指名手配犯(パブリック・エネミー)、ジョン・デリンジャー。その愛と野望の逃亡劇、となっている。「大胆不敵な銀行強盗。奪うのは、汚れた金。愛したのは、たった一人の女。」とも書かれている。言ってみれば、大恐慌時代、美学を貫き通した銀行強盗、ジョン・デリンジャーの物語といったところである。

 殺し文句がにくい。「俺は、殺さない。俺は愛する女と年老いて死ぬ」。いいねえ。

 チラシには、こんな解説も。

 「不況に苦しむ多くの国民は魅了され、まるでロックスターのようにもてはやした」となっていて、この点でも映画「人生に乾杯!」と似ている。

 

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