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原爆症認定のあり方 臨床医、肥田舜太郎さんの信念と科学

 地方紙は、これだからうれしい。広島・長崎の「原爆の日」を前に、懐かしい顔が、7月26日付中国新聞(本社・広島市)に載っていた。

「内部被ばくこそ、原爆症の根本原因」

と主張し続けてきた臨床医の肥田舜太郎さん(92歳)である。かつて広島市での講演会でお会いし、数多くの原爆症患者を看続けてきた臨床医としての体験を聞かせていただいた。小生自身、科学記者、科学担当論説委員として、体内に蓄積された放射性物質による内部被ばくの恐ろしさを知っていただけに、この主張にいたく共感したのを記憶している。

 原爆症というと、とかく直接被ばくばかりが問題になる。原子爆弾の破裂によって大気中に飛散した放射性物質を吸い込んみ、その後、体内からの放射線に被ばくされ続け、今になってさまざまな症状が出てくる人たちも、原爆症と認定すべきであるというのが、肥田さんのとらえ方だ。肥田さんは、戦後一貫して

 原爆症とは何か

を問い続けた。簡単に言えば

 直接被ばくだけではなく、吸い込み被ばく(内部被ばく)も救済を

ということである。この点が、厚労省の認定では大きく欠けている。

 広島・長崎の「原爆の日」を前に、30年間務めた日本被団協中央相談所の理事長をこのほど退任した肥田さんを同新聞の岡田浩平記者がインタビューしている。「内部被ばくこそ病気の原因」であり、科学的な根拠がないことを理由に、厚生労働省が患者の認定を切り捨てるのは愚の骨頂だ、と舌鋒は相変わらず鋭い。

 インタビューむでも、原爆症をどうとらえるか、という記者の質問に、肥田さんは、

「がんや白血病ばかりが(原爆症患者として)認定されているが、それ以外にも認定すべき人はたくさんいる」

と主張する。臨床医としての経験が、そう言わしめているのだろう。

 原爆の日を前に、

 原爆症認定集団訴訟をめぐり、原告全員の「一括救済」を、被告側の政府(厚生労働相)が受け入れるかどうか。あと一週間と、その回答期限が迫っている。

 山陽新聞(本社・岡山市)も、7月29日付で、この問題を大きく取り上げている。同紙は、「集団訴訟の提訴から6年。各地の裁判所では国側敗訴の判決が18回も続いた」と指摘している。だが、「放射線との因果関係が判然としない疾病を認定するなど一審判決は問題が多い」という厚労省幹部の言い分を紹介している。こうした言い分は、これまで公害訴訟などで何度聞いたことだろう。科学的な確証がないことを理由に問題を先送りし、さらに被害を拡大する。戦後、この繰り返しが、薬害訴訟、公害訴訟などていかに多かったか。国側は大いに反省すべきである。国側は一審とはいえ、敗訴が続いている事実を重く受け止めるべきであろう。

 ところで、こうした原爆症のとらえ方は、過去の出来事に関わることだけではない。今も医学的には解明が難しい、こうした内部被ばくはさまざまな分野で起きている。

 たとえば、7月28日付高知新聞は、

 石綿、喫煙/体内被ばくで中皮種か/岡山大チーム、肺にラジウム蓄積

と伝えている。「中皮種など肺にできるがんは、吸い込んだアスベスト(石綿)や喫煙により肺に放射性物質のラジウムがたまって〝ホットスポット〟ができ、非常に強い局所的な体内被ばくが続くのが原因とする研究結果を岡山大などがまとめ、発表した」と記事は伝えている。

 さらに、遠くイラクでは、

 2度の戦争、後遺症/子供の白血病10倍/米劣化ウラン弾でイラク

と、7月16日付静岡新聞は伝えている。これも、戦闘で飛び散った、あるいは蒸発した放射性ウランを抵抗力のない子供たちが肺に吸い込んだ内部被ばくによるものであると想像される。ここでも、科学的な確証がないことを理由に、米国はこの事実を認めていない。こうした後遺症については、現在でも医学的に因果関係を証明するのはなかなか難しい。そのことをいいことに、事実に目をつぶるのは政治のすることではない。

 人の命にかかわることでは、確証を待っていては、救済が間に合わない。想像力や洞察力が必要だ。

 そんなことを考えさせられた。

 肥田さんの原爆症認定の考え方は、おしなべて今起きている内部被ばく問題をも告発している。2009.07.31

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