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共生経済 赤ちょうちんとサクラエビと   

 勤務先が駿河湾に近い。駿河湾と言えば、4月、5月の春のサクラエビ漁である(11月の秋漁もある。この間の夏は産卵期で禁漁)。このブログでも、踊り食いができる保存法のニュースを紹介した。小生が週何回も行きつけている浜松市中区の「赤ちょうちん」では、春の味覚として、釜揚げサクラエビが突き出しとしてよく出された。日本海側の金沢から転居してきた身には、これがなかなかおいしい。かき揚げてんぷらもあるそうだが、生食もいける。金沢もいいが、東海地方に暮らすようになって、駿河湾のうまいものを食ったと実感した。

 ところで、このサクラエビ、なんと、駿河湾に面するどの漁港でも、また、どの漁協でも自由に漁獲できるのかと思っていたら、静岡市清水区の由比(ゆい)地区の漁港、蒲原地区(清水区)、そして大井川地区(現焼津市)の三漁港の漁協に所属する漁船しか漁獲はできないのだそうだ。勝手にとれない。そんな決まりがあるとは知らなかった。

 なぜだろうか。110年以上ほど前の明治時代(正確には明治27年)に、由比(ゆい)出身の漁師(望月平七+渡辺忠兵衛)が初めて駿河湾の深海にサクラエビがいることを偶然に見つけたのだそうだ。現在、由比地区では、望月漁師のひ孫にあたる漁協組合長(望月氏)がサクラエビ漁を出漁対策委員として、蒲原地区、大井川地区の対策委員とともに仕切っている。いつ、何隻を出漁させるか、この人たちが足並みをそろえて決めるのだそうだ。乱獲を避けるためだろう。

 ところで、なぜ、110年前まで、駿河湾にサクラエビがいることに気づかなかったのだろう。不思議に思って、手元の「新世紀ビジュアル大事典」を調べてみたら、わかった。サクラエビの項目にこうある。

 「白色の地に小さな赤い色素が点在する小形のエビ。甲殻類サクラエビ科。体長4cm。深海性で発光器をもち、夜間は上層に(えさとなるプランクトンを求めて)浮かび群泳。食用。」

 ヒカリエビとも言うらしい。夜に海面近くにやってくるから、夜に出漁することのなかった明治時代まで人間は気づかなかったようだ。それが電気が普及するようになった明治30年代に夜出漁できるようになり、先の発見後に、ようやく盛んになったのであろう。その子孫が由比地区にいて、今も由比地区の「仕切り」役となっているというわけだ。

 7月19日日曜日、NHK東海・北陸ローカル番組「駿河湾サクラエビ漁」が放送された。サクラエビ漁は、春漁(由比沖など湾奥部)と秋漁(焼津沖などの湾西部)で行われる。漁船は大きさも、乗組員の数(一隻7人)も決まっている。夜、出漁する。魚群探知機で海面近くに向って「群泳」してくるサクラエビを確認。二隻の船がペア(これを伝統的な用語で「統」という)を組み、左右に分かれて、群れ目掛けて網をかける。失敗の許されない一発勝負の、一網打尽の漁法を紹介していた(ただし、稚魚はとらない)。ペア内のチームワークが肝心だ。だからペアのことを「統」というのだろう。

 面白いのは、この30年、漁獲したサクラエビは、すべて蒲原、由比、大井川地区の三つの市場でセリにかけられるが、三地区の総水揚げ額の合計を共同で管理し、各乗員に平等に分配する

プール制

をとっていることだ。乗員(漁船員)の年齢にも関係なく給料がもらえる。全国でも珍しい制度である。なぜか。自分さえよければいいという過当競争による乱獲防止と、その結果である価格暴落の防止を図るためである。世界的にも大変に珍しい、しかし、資源管理としては大変に優れた仕組みであると感心した。今流行の成功報酬制でも成果主義でもないところがいい。さりとてなまけていたら、みんなの収入が等しく減る。そうならないために総売上高を大きくする必要があるが、そのために各「統」は知恵を絞り、全力を上げる。競争ではなく、協力しあい、平等に成果を分配する。言ってみれば、弱肉強食の強欲経済、強欲資本主義の対極にあるような、

 共生経済

の見本のような仕組みである。もう少し大げさに言えば、

公益資本主義

と言ってもいいかもしれない。このようにサクラエビ漁は共同作業による漁法をとっていることに感心した。

一人はみんなのために。みんなはひとりのために

の精神だ。これには、正直者がバカをみないよう抜け駆けをさせない、掟破りをさせない、乱獲をさせない強力な統制力、つまり鉄のリーダーシップを発揮できる組合長の存在が必要である。それが各地区にいる対策委員であり、由比地区で言えば、サクラエビの発見者のひ孫(望月氏)なのである。これならどこからも文句がでにくい。そのことで、みんなが折り合いをつけているのだろう。これは、サクラエビ漁を今後も末永く続けていくための、そして、ある意味公平な、いかにも日本人らしい知恵とも言える。

 1960年代までは、互いの競争で乱獲をしたため、漁獲高が1970年代には半分くらいにまで落ち込み、不漁に悩まされた経験を踏まえた反省から生まれたシステムらしい。言い換えれば、長期的な視点で資源管理をするということだ。資源管理とは、言葉は悪いが、昔からよく言うではないか、「生かさず、殺さず」と。あれである。あれを人間ではなく、漁業資源にうまく生かしたのが、サクラエビ漁システムなのだ。

 乱獲防止が叫ばれる中、漁業に未来はあるか。ある。なぜなら、そこにサクラエビ漁が語る共生経済という生きたうまい方法があるからだ。2009.07.25

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河川敷でロケット花火をあそこにいれてやったら、発射と同時に潮ふいてフイタw しかもお礼に39マンもらったしwww [続きを読む]

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