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浜松の文学力 文芸館「特別収蔵展」に寄せて 愛しき言葉の悲しき現実

   20年暮らした金沢から定年を機会に浜松に転職してきて半年あまり。久しぶりの三連休ということもあって、暑い中、浜松市中区の浜松文芸館に出かけた。浜松が生んだ、あるいは育てた文人、作家を紹介する「特別収蔵展」が開かれていた。「愛しき言葉」と銘打たれた館内はほとんど人影がないので、ゆっくり見て回れた。

 浜松と言えば、「二十四の瞳」で知られる映画監督の木下恵介氏が有名だが、なんと、文芸館の名誉館長であるとは知らなかった。この映画は観た。作家では、藤枝市出身の藤枝静男が知られている。浜松市で眼科医をしていたそうだ。ただ、作品は読んだことがないのが少し恥ずかしい気がした。

 この程度であったので、楽しみにして来館したのだが、浜松にはおおよそ、全国に知られる作家、俳人、文人は十人くらいのようだ。民芸運動に奔走した内田六郎(俳号・六楼、産婦人科医)はガラス絵収集家として知られる。京都の河井寛次郎、柳宗悦などが仲間だったのだろう。

 そのほかには、思い浮かばなかったが、展示では、墨絵の山根七郎治(やまね しちろうじ)、相生垣瓜人(あいおいがき かじん)、俳人の百合山羽公(ゆりやま うこう)、俳人の原田濱人(はらだ  ひんじん)が紹介されていた。いずれも、平成以前に活躍した人ばかりであり、平成に入る前に、藤枝氏を除けば、いずれの文人も鬼籍に入っている。その藤枝氏にしても、亡くなってもう20年近くになる。

 これらをじっくり拝見しての感想を遠慮なくはっきり述べれば、今、浜松からこうした文人、作家の跡を継ぐ、これといった若い世代がほとんど育っていないのは、どうしてだろうというものだった。平成に入って、これという人材が育っていない。それどころか、1980年代から育っていない。このことと、浜松が1980年代から産業都市として著しい発展を始めたということとは無縁ではないように思う。今では政令指定都市である。静かにじっくり、愛しき言葉をつむぎだす環境がなくなったといえば言いすぎであろうか。しかし、それが、活気ある浜松の悲しき現実なのかもしれない。

 伸びゆく浜松、低下する文学力。

 なかなかうまくいかないものだ。

 ただ、金沢もまた、この20年、いや30年、いや、ひよっとすると40年以上、全国に通用する作家や文人を輩出していない。金沢の文学力も低迷している。唯一、金沢市出身の唯川恵氏が5、6年前に直木賞をとったくらいだ。それも、金沢を離れてからの作品『肩ごしの恋人』で受賞している。

 金沢は、かつて、といっても主として戦前に活躍した人物だが、泉鏡花、徳田秋声、室生犀星の三文豪を生んだ。1970年代にノーベル文学賞を受賞した川端康成氏は、自然主義文学の徳田秋声をいたく敬愛していたことから、

 金沢は文学のふるさと

と地元の求めに応じて、受賞まもない時期に揮毫している。金沢は、今では、たいていの調査で、「住んでみたい街」のトップ5に入る。美しく、魅力ある落ち着いた住みやすい街であり、一度住むとなかなかそこから抜け出ることはできない。ついつい住み着いてしまいそうな街である。それはそれでいいのだが、文学の才能を発揮するには不向きな街なのだろう。才能が開花しにくい、あるいはせっかくの才能をしぼませてしまう魔力が潜んでいる。文学力を高めるには、それこそ、孤独に耐え、何かに立ち向かうために、心を切り刻む気迫と気力が必要なのだ。それがいやなら、その街から抜け出すことである。豊かな浜松にも、暮らしやすい金沢にもかつては文学力があったのに、今はそれが衰えている。これが、

 愛しき言葉の悲しい現実

なのではないか。そんな印象を展示室を出て、持った。この間、小一時間、来館者は私のほか、1人だけだった。2009.07.20

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コメント

今日初めてこのプログに出会いました。よろしくお願いいたします。私も昨年初めて文芸館を訪れました。浜松市があまり文学に熱を入れていない感じがしました。文学が好きな人は沢山いると思うのですが、お金にならない事はしたがらない地域性があるのだと思います。文化より経済が大切な所かもしれません。それでも、芥川賞作家の吉田知子、ホラーで有名な鈴木光司などが浜松出身です。児童文学の作家もいます。ホンダ、ヤマハ、スズキなど世界的に知られている人が多いために、文科系の有名人は影に隠れているようです。藤枝静男には若い時に目を治して貰った事があります。近くにすんでいたのです。優しい目医者さんでした。金沢には行った事はありませんが、全く違う文化を持っているような感じがします。他者を排除する様なところがないのが浜松の良い所だと思っています。

投稿: 白萩 | 2012年11月 3日 (土) 00時18分

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