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事実は伝えたが、知りたい真実がない ひとり老後のウソはなぜなくならないか

 NHKともあろうものが…、とついつい言いたくなる似たような番組が今週は続いた。

 ひとつは、鋭い問題意識で語りかける勉強熱心なキャスターが売りの「クローズアップ現代」。7月13日の放送は

 「ひとり老後も安心の住まい」

 もうひとつは、7月16日放送のシリーズ「ヒューマン・ドキュメンタリー」。新聞タイトルは

 「人生の最後を過ごす家/がんや認知症と向き合う日々/生まれる絆家族の思い」

となっている。いずれも、ひとり老後の最後をどう看取るか、という深刻な問題を扱っている。それだけに視聴率も高いし、期待も大きい。それなのに、視聴者が本当に知りたい真実がない。ただ、ただ、笑顔と、よかった、よかったという安直な内容。そこには何の問題もないかのような番組の進め方。いや、あるのだけれども、それは、問題があまりに深刻で、解決が難しい故に、こっそり素通りする。知りたい真実をこっその隠す。放送された映像は事実ではあるが、どこかにウソがある。

 そんなことを敏感に感じたのであろう、7月17日付朝日新聞朝刊「はがき通信」に視聴者からの反響が掲載されている。先の「クローズアップ現代」について、一部引用するとこうだ。

 「高齢者が助け合いながら、若者にエネルギーをもらい、地域のサポートを得て(寂しさや不安の解消が)可能になった。これからの住まい方として注目していきたいが、問題点や課題点も取り上げて欲しい」(主婦・61歳)

 あまりに、話がうますぎるので、ほんとかしら、なにか問題点があり、それをこっそり落として、うまい話ばかり紹介したのではないかしら、と素朴な疑問、というか、鋭い疑問をこの主婦は感じたことがうかがえる。うまい話には気をつけろ、というわけだ。ゲスト出演者はともすると、耳に入りやすい心地よい話ばかりをしたがる。困っていることは、なるべく知らんぷりしたい。当然である。そんな場合、キャスターが視聴者の聞きたいことをズバリ、斬りこんで聞き出すことが求められる。この番組のキャスターはこの点で、放送前に勉強しているはずなのに、そしてそれがこの番組の売りなのに、視聴者からはがゆい思いを抱かせてしまったようだ。

 なぜ、そうなったか。それは、ひとり老後の安心住まいという、身近であり、しかも深刻な、それでいて解決がきわめて困難なテーマであることから、視聴者が納得するうまい解決策がないからだ。問題点を指摘すれば、視聴者から、番組の事例がきわめて稀な事例であり、とても参考にならないと思われてしまう。それは避けたい。放送側としては、放送した事例は、どこでもできることなのだということを強調したい。そこにウソがどうしてもまじる。その結果は、単にウソだけにとどまらず、解決すべき問題から視聴者の目をそらしてしまうという危険がある。これは放送側にとって不本意であろう。しかし、繰り返すようだが、一見、こうしたウソは仕方のない罪の軽いウソと思いがちだ。が、実は、放送する側の制作意図をも知らず知らずのうちに踏みにじる怖いウソなのである。自戒を込めて、あえてこのことを指摘しておきたい。

 このことは、上記の「ヒューマン・ドキュメンタリー」にも当てはまる。いいな、いいなの連続であり、そのためにその背後にある深刻な問題を覆い隠してしまった。映像出演者の自己満足に終わっている。映像に映っている笑顔の出演者がかかえる深刻な問題が覆い隠されてしまっている。すべては万々歳ではないはずだ。そこに斬りこむ、メスを入れなければ、ドキュメンタリーとは言えない。「家族に乾杯」ではあっても、ドキュメンタリーではない。その意味で、悪気がない分、言葉は悪いが「悪質」である。そのことを直感的に感じて、視聴者の多くは、きっと「問題点や、解決しなければならない課題を具体的に取り上げて欲しい」と思ったことだろう。わたしも期待していただけに、その同じ気持ちである。

 「生まれる絆家族の願い」で、ひとり老後の現実の厳しさをごまかしてはならない。このことを思い知るには、一年後に、もう一度、番組に出てくる施設(かあさんの家)を再取材してみれば、わかるだろう。その意味で、再取材を元にした、

 それからの「かあさんの家」

に期待する。宮崎市のNPO法人ホームホスピスが運営する「かあさんの家」で、幸せの看取りがほかの入所者にも広がっているだろうか。運営に立ちはだかる問題点は何か。これからの課題は何か。全国に広がるには何が足りないのか。ここに斬りこんで欲しい。そこから、一人老後という深刻な問題の、どこででも可能な具体的な解決口が見いだされてくるだろう。2009.07.17

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