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「科学的」って何だ! 「モノゴトの正しい疑い方」の正しい疑い方

 浜松市に転居して、半年、科学ジャーナリストとして、ふと、目立たない本が目に付いた。JR静岡駅の構内の本屋さんである。新刊書ではない。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の松井孝典さんと、イラストレーターの南伸坊さんの対話本

 『「科学的」って何だ!』(ちくまプリマー新書)

の本で、帯には「モノゴトの正しい疑い方」と大きくうたわれている。松井さんは、浜松市に隣接する静岡県森町出身ということで、親しみも湧いたし、松井さんの最近の専門、アストロバイオロジー(宇宙生物学=地球外生物学)にも興味がもてて、読んでみた。南さんのイラストが面白い。まじめな松井さんを持ち上げてはいるが、実は、完全におちょくっている様子が面白い。南さんはすべてお見通しなのだ。それに松井さんが気付いていない、ひょっとしたら、気付いていないふりをしているだけかもしれない(そんな芸当ができる人ではないとは思うが)。

 問題は、この本は、「モノゴトの正しい疑い方」を松井さんが伝授する趣向をとっている点だ。その正しい疑い方とは、松井さんによると、

 「そもそも私は(松井)、誰かが何かを言ったときに、その主張の前提を疑う。「なんでそうなの?」「何でそう考えたの?」と。すると相手から、「こうだから」と返ってくる。するとまた僕が「こうだから、と言うけれど、それはどうしてそう思わなければならないの?」とか訊く。要するに相手のよって立つ前提をほとんど信用しないわけです」

と語っている。これが松井さんの「モノゴトの正しい疑い方」だと指摘している。私も、科学ジャーナリストだから、この意見には賛成だ。素晴らしい。

 ところが、松井さん自身がこの本の中で話している、あるいは主張している箇所に、この考え方を適用してみると、松井さん自身、全然、正しい疑い方をしていない。科学的な思考をしていないのだ。この本から実例を引き出してみる。

 南 先生は血液型についてはどうお考えですか?

 松井 ははは、どう考えたって因果関係があるわけがないと思っていますよ。

 南 エエッ? あ、そうですか?(笑い)

 松井 だって、正確というのは、脳の中の仕組み(ニューロンの回路の接続の仕方)の話ですね。

 南 はい。

 松井 大脳皮質の中のニューロン(神経細胞)が、ある種電気回路みたいにどう接続するかという話と、血液中のある物質がどういう型なのかということは、本来まったく無関係なはずです。だから、正確と血液型に関係があるわけがないと思いますね。

 南 うわっ、めちゃくちゃ明快ですね(笑い)

となっている。しかし、私に言わせれば、めちゃくちゃおかしい。なぜ、ある種電気回路みたいにどう接続するかという話と、血液中のある物質がどういう型なのかということは、本来まったく無関係なはず、と言えるのか。私なら、ここで、松井さんに

「なんでそうなの? なんで無関係と考えたの?」

と訊く。これが松井流の「モノゴトの正しい疑い方」だからだ。こんな事例が、血液性格判断論議だけでなく、松井さんの話が「科学的ではない」事例が、いたるところにある。

 UFOがありえない理由

という談義のところにもある。

南 宇宙人についてもちょっと伺いたいんですけれども、(中略) UFOの目撃談なんかも、中には信憑性のある話もあるとお考えですか。

松井 そんなものはありえないでしょうね。

南 あははは、ありえないんですか !

松井 まず、(中略) 宇宙を旅する乗り物はせまい空間ですから、百万年もそうした閉鎖系空間で生き延びるなんていう生き物は、単細胞の原始的な生物くらいしかいない。ましてや宇宙船を操縦してやってくるような知的生命体がいるわけがない。

南 これも明快だなあ‐‐

と、完全に松井センセイをからかっている。アストロバイオロジーが専門の研究者にしては、あまりに粗雑である。「モノゴトの正しい疑い方」をしていない。たとえば、単細胞の原始的な生物くらいしかいない、と断言しているが、

「何でそう考えたの? 」

と聞き返したい。これは知的生物は、人間ぐらいのサイズが必要であるという前提がある。これは人間中心主義で、人間が陥りやすい危うい独善だ。地球外生物学者がこれでは困る。さらに、この松井さんの話に出てくる「ましてや」の使い方がおかしい。前後が文章的につながっていない。飛躍がある。「ましてや」以下の文章をそのまま生かすとしたら、

 その単細胞の原始的な生物は、人間のような文明すら築けていない。その人間すらいまだに宇宙船をつくれないでいる。そう考えると、ましてや宇宙船を操縦してやってくるような知的生命体がいるわけがない。

ということだろう。

 松井さんは、UFO目撃談について、南さんに尋ねられて、そんなものはありえないでしょうね、と一言で片付けている。高名な天文学者、J.アレン・ハイネック博士は、世界中の目撃談話について、先入観を持たずに、報告書にまとめている。長年にわたって米空軍に報告されたUFO現象を解明する任務に携わり、その事例のうち、80%は、いわゆるUFOではないことを根拠を示して、そして、信頼性ある原因し解明した。しかし、いくつかについては、どうしても現代の科学では説明できない現象として残ったと、1975年に報告している。日本語訳では

『UFOとは何か』(角川文庫、1981年)

として出版されている。こうしたことを考えると、また、日本ではまだ珍しい地球外生物学者として、少し軽率ではないかという印象を持つ。少なくとも、科学者として謙虚ではない。

 かの有名なアイザック・ニュートンは晩年、私などは、(科学の真理という)広い海のほんの一部に過ぎない海岸の砂浜で、打ち寄せられた貝殻を見て、喜んでいる子どもに過ぎないという趣旨の謙虚な心境を述べている。

 「モノゴトの正しい疑い方」とは、こうした謙虚さのことである。モノゴトをいとも簡単に断定するというのは「科学的」ではない。アレン・ハイネック博士の報告書はこのことをはっきり示している。2009.06.13           

 

 

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