« 科学コミュニケーションが不安をあおる 耳慣れない用語は使うな | トップページ | エロ・グロ・ハイセンス落語 快楽亭ブラックの毒演会in浜松 »

なぜ裁判で医師の無罪が多いか 大学病院のずさんな事故調査

 大きな声では言えないが、「やはりそうか」と腑に落ちる記事が5月8日付静岡新聞朝刊に掲載されている。

 大学医療事故調査委/ずさん報告書作成も/全国医学部長病院長会議の医療事故対策委員会

 という見出しの下に「対策委員会は、医療事故の原因究明のため大学病院が設置した調査委員会がずさんな報告書を作成している例があるとして、会議を構成する全国八十大学の医学部長らに改善するよう勧告したと発表した」。当事者の医師本人に聞き取り調査をしないまま、報告書を作成したケースがあったという。「犯罪となる可能性もある」と指摘している。

 こうした勧告を今この時期に出した背景には、東京女子医大病院での心臓手術中の医療機器事故(2001年)、福島県立大野病院での帝王切開手術の術式をめぐる事故(2004年)などで、業務上過失致死罪の疑いで起訴された医師がいずれも、最近、控訴審などで無罪確定となったことがありそうだ。つまり、捜査の手がかり、決め手とした院内事故調査委員会による医療事故の解明には限界があったというか、報告書がずさんであり、裁判所の検証や専門学会で肝心の院内報告書が否定され、その結果、医師が無罪になったからだ。

 こうしたことから、国は、二年前から第三者機関の医療版事故調査委員会の創設を目指し、モデル事業などを実施している。これに対し、会議は、大学病院の事故調査委員会を専門性と透明性を確保したしっかりしたものにして、第三者機関に代わる機関として活用し、創設委員会の受け皿にしたいという思惑がありそうだ。わかりやすい言葉で言えば、いきなり警察が動き出すのではなく、餅屋は餅屋でまず、医師側がきちんとした公正な調査をし、それに基づいて、警察に医療事故として通知するかどうかを判断し、通知分については司法判断をあおごうというものだ。それには、比較的に人材も施設も整っている大学病院自体が質の高い院内事故調査をする必要がある。ところが、現状は、むしろ事故隠しになりがちな「身内調査」の限界を露呈しており、とても信頼される院内事故調査に基づいた報告書となっていないものが多いということであろう。

 それにつけても、死因解明のため死亡時解剖率が数%という「死因不明社会」という現状はおおいに改善する必要がある。最近では110万人が何らかの原因で死亡しているが、このうち死因特定のための解剖(司法解剖や行政解剖、院内の遺族の承諾に基づく病理解剖)数が3万人にも満たないというのはおどろくべき少なさであり、犯罪を見逃している可能性は大変に高いと言うべきであり、医療事故や医療ミスという病院関連死だけに目を奪われていてはならないことを科学ジャーナリストは社会に警告すべきであろう。これから10年、20年で団塊世代(各年齢250万人、計750万人)の死亡が増えていく「多死社会」を迎えようとしており、死因究明センターの創設も視野に入れるべきではないか。現在、日本には、大学法医学教室での司法解剖、東京都23区にある監察医務院での行政解剖を除けば(大阪府には委託による監察医制度がある)、遺族の承諾を必要としない強制的な死因究明を主たる業務とする施設はない。とりあえずは、死因がはっきりしない場合、医師は「心不全」とごまかさないで、はっきり「死因は不詳」とする良識を持ちたい。あいまいに死因として心不全とすれば、死因が確定したことになり、犯罪に手を貸す可能性すらあることを認識すべきだ。「不詳」とすれば、死因不明であり、死亡時死因検索としてCTを活用した画像を残し、データベース化しておけば、後日、犯罪捜査などに役立てることができるし、医療の向上に寄与する情報を提供することができる。

 ともかく、生前の画像診断図はあるが、死亡時の画像などの情報がほとんどない

というゆがんだ現状は異常である。

 こうしたことをもう少し突っ込んで書けば、タイミングのいい、そして提案のある『ルポ 医療事故』になったはずである。2009.05.08  

|

« 科学コミュニケーションが不安をあおる 耳慣れない用語は使うな | トップページ | エロ・グロ・ハイセンス落語 快楽亭ブラックの毒演会in浜松 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/44942982

この記事へのトラックバック一覧です: なぜ裁判で医師の無罪が多いか 大学病院のずさんな事故調査:

« 科学コミュニケーションが不安をあおる 耳慣れない用語は使うな | トップページ | エロ・グロ・ハイセンス落語 快楽亭ブラックの毒演会in浜松 »