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異議申し立てる『悪党の金言』  一匹狼たちの孤独な戦い

 ジャーナリストたるもの、世の正統派に異議を申し立てる「悪党」の言い分にも、耳を傾ける度量がほしい。常道でもあるが、これがなかなかできない。反権力とまでは言わない。せめて、わけがあって孤独なる一匹狼、アウトローすれすれの道を歩んでいる人間にも、風化させてはならない「知られざる真実」を語らせてみる器量があっていい。そんな近著に出合った。ノンフィクション作家、足立倫行氏の

 『悪党の金言』(集英社新書)

である。登場人物は

自費で発行する雑誌「昭和史講座」で菊池寛賞を受けた保阪正康/フランス現代思想が専門の 内田樹/ 起訴休職外務事務官の佐藤優/ オウム真理教を内側から映画化したドキュメンタリー作家の森達也/ オウム真理教の擁護派と誤解されて日本女子大教授職を追われた宗教学者の島田裕巳/ 元東京地検特捜部検事で石橋産業事件をめぐる詐欺容疑で逮捕された田中森一/ 暴力団社会にメスを入れ続けたノンフィクション作家の溝口敦/ 直木賞作家で官能小説に挑む重松清

の八人が、インタビュアーの足立氏の質問に答える。多くが離婚経験があるか、離婚の危機があった。民事訴訟もしくは刑事訴訟にかかわっているか、かかわった。たいていは孤独と戦っている一匹狼であるなどの共通点がある。しかし、保阪氏や溝口氏は、どう考えても、悪党派ではなく、正統派とは言わないまでも、正義派のように感じた。

 とりわけ、溝口敦氏は、小生が二十数年前の夕刊紙記者時代に取材のお手伝いをし、山口組対一和会の抗争の中、竹中正久山口組組長暗殺事件が発生した折、司法解剖が行われた大阪医科大学法医学教室の松本秀雄教授を紹介した経験から言うと、物静かで正義心の強い紳士という印象が強い。どこから見ても、悪党とは思えない。むしろ悪党に狙われるタイプであるように思った。インタビューでも、そんな印象である。露悪的あるいは灰汁(あく)が強いという意味の悪党でもない。口数の少ない静かなる「恥かしがりや」のインテリと言っていい人物だ。

  事実、このインタビューでも、現在の暴力団対策法では暴力団追放、撲滅は無理で、「日本も、諸外国並みに暴力団禁止法をもつべきだ」と主張している。長年暴力団の実態を取材してきたルポライターらしい正統派の主張である。暴力団の組員になること自体が犯罪であるという取り締まりが必要だというのだ。対策法ができても、一向に暴力団構成員数はほとんど減ってはいないことを考えると、そのとおりだろう。正義派を標榜する新聞社の論説委員でも、なかなかここまでの卓見は持ち合わせていないのではないか。

 このほか、本書には、民主党代表の小沢一郎氏の公設秘書逮捕事件で最近話題になっている「国策捜査」の真実などが生々しく語られている。森達也氏は、北朝鮮拉致問題に対する家族会の対応に不審や、疑問を呈する。悪い北に制裁を加えるのが善という「単純な善悪二元論が日本の社会のあちこちに弊害をもたらしている」としている。森氏は白黒二元論の弊害として、議論が膠着し身動きができなくなることを挙げる。だから、

 「ドキュメンタリーやノンフィクションの役割は、黒白の間の狭くなったグレーゾーンの本来の幅を取り戻すこと」(一部要約)だと思うと語っている。善からだけものを見るのではなく、悪と見なしがちなほうからも善を見つめ直してみると、交渉が膠着して身動きできなくなっていると思っていた事態を動かすことができる選択肢が見えてくるといいたいのだろう。

 最後に、「悪党」として、登場してもらいたい人物をもう少し挙げるとしたら、男性では痴漢冤罪を叫ぶエコノミスト、植草一秀元教授、新党大地代表で国策捜査を批判し、「やまりん」事件で上告中の鈴木宗男衆議院議員、裁判中で最近著『徹底抗戦』(集英社)を出したライブドアの堀江貴文元社長、政府見解と異なる歴史認識の論文を発表し更迭された田母神俊雄前航空幕僚長、女性なら、さしずめ、占い師の細木数子氏など。人生を豊かにする意外な言葉が聞けるだろう。

 田母神氏は、先日の日本青年会議所主催の「憲法タウンミーティング」(大分市)で、「今の憲法は自分で自分の国を守れない『永久子ども憲法』だ」と指摘した。その上で憲法九条第二項に関し、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持すると変えればいい」と主張している(5月3日付静岡新聞=ベタ扱い)。ちなみに、この日の静岡新聞社説は、憲法記念日を取り上げ、「もっと使い込む努力を」と主張している。田母神氏の改憲主張はまさに、正統派に異義を申し立てる面目躍如たる「悪党」にふさわしい。

 ただ、残念なのは、このインタビューが連載された『PLAYBOY日本版』は2009年1月号で休刊になったことである。2009.05.06

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