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映画「レッドクリフ」 赤壁の二つの誤解 

 浜松らしい、そして、大型連休前の春らしい陽気に誘われて、浜松城の南にあった小高い「出丸」跡地に立てられた浜松市立中央図書館に散歩に出かけた。目立たない建物だが、裏入り口脇には「浜松城出丸跡」の石碑がひっそりと建っていた。

 開架閲覧雑誌の中に、これまでほとんどみない雑誌「歴史街道 5月号」が特集「赤壁の真実」を特集していたので、最近、映画『レッドクリフ」を見たばかりだったこともあり、手にとって読んでみた。巻頭のグラビア「この人に会いたい」は、

 この映画の主役の一人、小喬(しょうきょう)役、リン・チーリン

のカラーである。女優・モデルとなっていたが、美貌と知性、それに若さの三つを兼ね備えた華のある女性であった。台湾出身で35歳、カナダ・トロント大で西洋美術史と経済学を学んだという。ピンクの優雅なドレスを身にまとったすらりとしたこの女性が、映画では意図的にかどうかは別にして(歴史的にはもちろん、ウソ)あのレッドクリフの決戦の勝敗を決定的にした曹操との「飲茶の時間」を設定したことにあったことを思い出した。その時間は三十分もなかったのではないか。この間に、風向きが逆になり、曹操軍敗北の原因となったというのが映画の設定。彼女自身、この特集のインタビューで、単身、曹操軍に乗り込んでいったシーンが気に入っているらしい話し振りであった。武力ではなく、中国の伝統文化で渡り合おうとしたと語っている。

 さて、その赤壁の戦いには二つの誤解がある。そう語るのは、この映画の監修を努めた渡邊義浩・大東文化大教授(三国志学会事務局長)。いずれも、後世に広く読まれた小説「三国志演義」に描かれたイメージによるものであると説く。

 第一の誤解は、人物像の誤解である。魏の曹操は、演義が言うような、漢大帝から皇位簒奪をひそかにもくろんだ悪玉などではなく、天命とは程遠い政治の私物化など腐りきった漢とは別の強力な中央集権国家建設を目指した真の改革者であり、英雄。蜀の劉備は、漢大帝の命を忠実に実行しようとした漢復興の「義の人」などではなく、実際は信用のできない梟雄(きょうゆう)。漁夫の利を狙って漢帝国を簒奪を狙っていた。名族生まれではない劉備としては、こうするほかに天下取りに参加することはできなかったのだろう。呉の孫権は、蜀との連合は、魯粛の秘計「天下三分の計」による呉の独立を画策するための方便であり、連合が勝った後には、いずれ蜀を滅ぼす参段をしていたであろう。

  結局、「ポスト漢」の国家構想の違いが、赤壁で激突したというのが歴史の真実

ということになる。

 映画では、こうしたこともあり、曹操を決して悪玉としては描いていない。数十万の兵士とともに、新しい国家建設に燃え、生きて故郷に帰ろうとの誓いを述べている。

 二つ目の誤解は、漢帝国衰退後の世の中を動かしたのは、当時の曹操、孫権、劉備のような群雄割拠の君主だけがすべてであったかのような歴史認識である。そうではなく、それに知恵を授ける、指南する「名士」たちこそが実質的に国の将来を決定していたという事実を見落としてはならないということだ。英雄でも、大衆でもない、名士、軍師の存在である。華々しい豪傑とは別の、時代の趨勢を冷静に見極めることのできる知識人がその名声をもって地域の君主に影響力を及ぼした人々である。古くは孔子などもそうであったろうが、当時では諸葛孔明、周愉(しゅうゆ)などが名士に入る。

 『筒井版 悪魔の辞典 アンブローズ・ビアズ著』(筒井康隆訳、講談社)によると、

 歴史とは、だいたいにおいて悪漢である支配者と、だいたいにおいて阿呆である兵士が惹き起こした、だいたいにおいてつまらぬ出来事についての、だいたいにおいて間違った記述

と書かれている。表層だけみれば、だいたいにおいてあたっている。深層に迫ってよく考えると、この指摘はたいたいにおいて間違っていることを知った。2009.05.01

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