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高等ニセ科学化する『脳』本

 日曜日だというので、午後、JR浜松駅に最近オープンした大型書店、谷島屋にぶらり、店内で珈琲でも飲もうと足を運んだ。運んで科学ジャーナリストとして、驚いたのは、脳に関する本が大変に多いということに気付いたことだ。平台に乗っているのをざっと挙げてみる。

 『フリーズする脳 思考が止まる、言葉が詰まる』(NHK出版、生活人新書、築山節、2005年11月)

 著者はある病院で「高次脳機能外来」を開設している脳神経外科専門医であるだけに、内容はしっかりしている。医博でもあり、解説がすこし難しいのが難点だが、的を絞っていて、とても参考になる。

 ところが、平台のよく見えるところに、まとめて、同一脳科学者のいずれも新書判が五冊も並べられているのにはびっくり。こうだ。発行年順に、

  『欲望する脳』(2007年11月) 

愛の欲求、金銭欲、利己主義など現代社会を欲望から読み解く決定的論考(帯)だそうだ。二年がかりでPR雑誌に連載したものを自分でまとめたもので、帯には「脳科学が人間の本性に迫る」とあった。

 『すべては音楽から生まれる 脳とシューベルト』(2008年1月)

クオリア、創造、偶有性、記憶、感動-脳科学者の原点と本質がここにある(帯)。これは、著者がしゃべったことを編集者がまとめたものである。

 『ひらめきの導火線』(2008年9月)

帯には、自分の可能性に火をつけろ ! とあった。どうも内容からは脳科学の本らしい。これも、著者がしゃべったことを編集者がまとめた安直版。

 『化粧する脳』(2009年3月)

他人はあなたをどう見ているか? (帯)  大手化粧品会社研究グループの共同研究成果が巻末に掲載されているので、五冊の中では、比較的に科学的な装いが整っている。

 『音楽の捧げもの ルターからバッハへ』(2009年5月)

出版社が準備した紀行企画の取材紀行文で自ら書いたもの。「すべては音楽から生まれる」の第二弾だという。いずれも、増刷されており、売れている証拠であろう。

 新書判とはいえ、わずか一年半でこれだけ出している。

 そこで、科学的な装いがあり、従って最もまともそうな『化粧する脳』をわざわざ買って、店内のカフェで読んでみた。五章から成り立っている。この本の特徴は、各章に必ずポイントとなるところに、いかにも科学用語らしい、一般にはすぐ理解できないキーワード用語が意図的に使われていることである。ミラーニューロン、社会的知性(以上、第一章)、アディクション、ビューティー・イズ・スキン・ディープ、ソーシャルパスポート、ピアプレッシャー(以上、第二章)、アルファー・メイル(第三章)、饒舌と沈黙のあわい(第四章)、メタ認知(第五章)

  これだけの専門用語、それもカタカナで要所要所にちりばめられている。親切のために日本語について説明しておくと、饒舌とは冗舌のことであり、「あわい」とは「間(あいだ)」のことにすぎない。

 しんどい思いをして、この薄っぺらな新書を読もうとあちこち鉛筆でチェックしながら何を言いたいのか、何とか知ろうと、悪戦苦闘、必死で読み取ろうとしたが、ほとんどは徒労だった。ただ、わかったことは、脳科学を操れば、どんなことでもこの世界の森羅万象はいかようにも説明が可能であるということだった。これは科学ではない。

 科学であるためには次の要件を満たさなくてはならない。

 何が言いたいのか、明確であること。言いたいことが定量的であればなおいい。

 実験で検証可能であること、再現性があること。

 何らかの、予測ができること。

 高等であろうと低級であろうと、科学的であることを装うニセ科学の特徴は、何でも説明可能であるが、何も予測できないのが特徴である。以前に述べた『感動する脳』しかりである。脳科学は何でも説明ができるところに問題がある。

 これに比べると、近著新書『戦争する脳』(平凡社、計見一雄)、『共感する脳』(PHP研究所、有田秀穂)は、著者得意分野に的を絞っている分、まだしも、科学書らしい。

 それにしても思うのだが、二十年前単行本(青土社)として出版された養老孟司さんの『唯脳論』(1998年、ちくま学芸文庫)は、何度読んでも含蓄のある脳科学の基礎本である。今も読むべき、重厚で考えさせる、示唆に富んだ、いわゆる名著だ。

 いかがわしい脳本が多すぎる。 2009.05.25 

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