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ひとり酒 しらたまの 歯にしみとほる

  しらたまの 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに 飲むべかりけり(若山牧水)

  この和歌は、岩手県北上市出身の牧水が長野県小諸で詠んだもので、旅の風情が伝わってくる。小生は、金沢在住時代、中心部の飲み屋街、木倉町通りの赤ちょうちんで一人手酌で飲んだりしていて、私の好きな歌である。明治43年の作というから、もうかれこれ百年前のものである。

 ところが、5月21日付毎日新聞朝刊に、

 「孤独な酒」脳卒中の危険2倍/厚労省研究班

と出ている。2倍というのは、酒を飲まない人に比べてのリスクである。脳卒中とは、血管が破れる脳内出血と、血管が血栓でつまる脳梗塞の両方を指す。男性を対象にしたこの調査は、約2万人を10年間にわたって追跡調査し、飲酒と、ともに酒をよく飲む親友と呼べるような「頼れる友達」がいる場合と、そういう親友のいない「一人酒」の場合に分けて、友人関係の在り方を比較した。

 その結果は、1日平均ビール大びん1本(=日本酒1合相当)未満を飲み、親友がいない一人酒の場合、飲まない人に比べて、脳卒中の発生率は1.2倍高まる。これが2本未満だと、1.8倍に跳ね上がり、3本1.9倍。

 親しい人のいない「一人酒」では大びん2本、3本と飲むと、脳卒中リスクは約2倍。

 一方、頼れる人がいて、ともに楽しく飲む機会の多い場合は、飲まない人に比べて、2本未満まででは、なんと逆に、リスクは0.7-0.8倍と危険率が下がる。つまり、ワイワイ楽しくお酒を飲むと、大びん2本までなら、むしろ、飲まない人に比べて、脳卒中になりにくい。しかし、ストレス解消に効果があるというわけだろう。しかし、3本以上の大量飲酒だと、飲酒の害が勝ってくるのだろうか、リスクは1.2倍に高まる。

 親友とのワイワイ酒は、大びん2本までなら、むしろ脳卒中リスクが小さくなる。

 実は、同じような「適量の酒は薬」という医学的な証拠、調査は、飲酒とがんとの関係にもある(1999年9月10日付北國新聞朝刊)

  酒、少量なら「百薬の長」/「2日に1合」、がん死最低

という記事(これも厚生省研究班の調査)が出ている。酒好きの小生、この十年前の記事を今も後生大事に持っていて、ときどき眺めているのである。対象はタバコを吸わない健康な男性約2万人で、七年間追跡調査した。その結果、まったく酒を飲まない人に比べて、2日に1合程度の人は、がん死危険率は0.53倍と、むしろ半分近くリスクが減少する。ところが、毎日1合程度だと、がん死危険率は0.9と、まったく飲まない人と同程度。これがさらに、小生のように「毎日2合程度」となると、1.5倍に跳ね上がる。毎日4合の大酒飲みとなると、1.54とそう変わらない。

 毎日飲むなら、1合程度を親しい人ともにわいわい飲むのが薬であり、脳卒中も、まったく飲まない人に比べて、0.8倍もリスクが小さくなる。しかも、がん死の危険も、まったく飲まない人と同程度になる。飲む健康とはこの当たりにあるのだろう。

 だから、牧水のような「酒はしづかに 飲むべかりけり」は旅の一場ではいいが、毎日というのは、飲む量にもよるが、あまりよくないのかもしれない。牧水に叱られるかも知れないが、文学を離れて、健康で長生きしようという観点からは、これからの季節

 日に一合 歯にしみとほる 夏の夜の 酒は楽しく 飲むべかりけり 

というところであろうか。 

  蛇足だが、牧水にはこんな歌もあるという(5月27日付日経新聞コラム「春秋」)

  人の世に たのしみ多し 然れども 酒なしにして なにのたのしみ (牧水)

大酒がたたったのか、牧水は43歳の若さで亡くなったという。2009.05.22

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