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死因不明社会 見逃されている犯罪

 大型連休前の雨の強い土曜日、そして翌日の日曜日、たまには科学ジャーナリストらしい本でもゆっくり読みたい。そんな気持ちなった。日本科学技術ジャーナリスト会議の会員でもあることから、会議が選んだ昨年の科学ジャーナリスト賞受賞作『死因不明社会』(海堂尊、講談社ブルーバックス)と、今年の受賞作『ルポ 医療事故』(出河雅彦、朝日新書)を読んだ。以前から、読んでみたいと思っていたが、ついつい延び延びになっていた労作である。

 前書の『死因不明社会』によると、最近の日本では、毎年、100万人以上が死亡している。このうちきちんと解剖して、死因を確定して、死亡診断書(死体検案書)にそれを記載しているのは、3%に満たない。あとは、遺体の表面に異常がないかを、ざっと目で検査して、病院勤務医師、警察医(開業医に委嘱)が病名を書く。よくわからないときは「死因不詳」とすべきところを「心不全」ですます場合も多いという。こんなずさんな死亡診断がまかり通る社会では、明らかな犯罪行為や児童虐待すら発見できない。さらには、病院での病死であっても、治療効果判定も行われない無監査医療がはびこると手厳しい。

 この本の大きな特徴は、解剖率が欧米に比べて極端に低いことを嘆くだけに終わらないで、死亡時に死亡原因を比較的に簡単にできる画像診断装置を使って調べる「死亡時医学検索」を、エックス線CTや高性能MRI(ともに一体の検査費数万円程度)による画像診断を活用して必ず行うことを具体的に提案していることだ。その上で、特に犯罪など問題のある遺体について、一体数十万円もかかる解剖を法医や病理医、監察医が実施し、死因を確定する二段構えのシステムの構築を詳細に述べている。そうした死亡時医療情報をデータベース化すれば、死因の確定を臨床医、病理医、画像診断医が共有でき、結果として今後の医療のレベルアップに生かされるという構想だ。こうした試みの先駆的なものに千葉大学医学部にすでに構築されていることも最後に紹介されている。年間500億円もあれば、構築可能とまで試算している。こうしたことは、医療版事故調の基礎データにもなるし、より広く、医療に限らず、死因究明センターへとつなげることもできるというわけである。この本は新書版と小さいが、長年問題意識を持った医師が書いただけあり、説得力と具体性があり、科学ジャーナリズムの手本となるような好著である。

 この著者の言いたいことは、死因確定は、医師法第一条に書かれている医師の職分「公衆衛生上の向上及び増進に寄与する」ことができるというものだ。具体的には、上記の提案によってできるというのが本書の狙いのようだ。

 もう一つの『ルポ 医療事故』については、東京女子医大病院の心臓手術事故など最近の医療事故9件を取り上げている。なぜ医療事故が起きたのか、被害者から見た院内医療事故調査の限界と問題点、死因究明の問題点を洗い出している。日本の死因究明の問題点として

 「警察が扱う死体のすべてを検視官が調べて、犯罪性の有無を判断しているわけではなく、死体の90%近くは、検視官に比べて死因究明に必要な知識が乏しい第一線の警察官が事件性の有無を判断している。しかも(司法解剖、監察医務院での行政解剖などで)解剖される死体は検視のうち1割のみだ」

を挙げている。この本では、ルポが主眼であることから、提案はない。主張もほとんどない。あるとすれば、最後のほうにある

 「政府は死因究明制度全体を視野に入れた将来ビジョンを示し、制度化に必要な人材の養成に急いで取りかかる必要があるだろう」

ぐらいだ。この点が、もの足りない点だ。2009.04.27

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