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米が「人工衛星」にこだわる理由  日刊ゲンダイ

 たまには、JR通勤の車内でタブロイド判の「夕刊フジ」や「日刊ゲンダイ」を読むのもいいなあ、と思うときがある。自分には気付かない意外な物の見方が載っていたり、二十年以上も前、大阪で夕刊紙記者をしていたころのことを思い出すからだ。当時は山口組対一和会の抗争が激しく、夕刊紙記者として大阪の街を取材に走り回った。山口組の竹中正久組長が一和会の組員に拳銃で暗殺されるという事件が起き、現場のマンションに駆けつけたことをよく覚えている。司法解剖は、以前から知り合いの大阪医科大学法医学教室の松本秀雄教授であったので、取材ではいろいろお世話になった。

 そんなこともあり、4月3日付「日刊ゲンダイ」を読んでいたら、「世界の美人政治家 ランキング」(スペインの有力紙「20Minutos」がウェブ上でネット投票している)の隣に、春名幹男=高名な元共同通信社ワシントン支局長、現在、名古屋大学大学院教授が「国際情報を読む」というコラムを書いていた。4月4日以降に打ち上げられると通告されている北朝鮮の「人工衛星」打ち上げについて、いかにも、春名さんらしい見方を書いている。タイトルは、

 米は今度も「人工衛星」で切り抜けか

というのだ。北朝鮮は1998年にテポドン1号ミサイルを打ち上げている。日本の防衛庁は専門家のさまざまな精密分析から「人工衛星などではあり得ない」との見解をアメリカ側に説明した。しかし、当時のクリントン政権は発射したのは「人工衛星」と断定した。なぜだろうか。春名さんは当時、ワシントンにいて、米政府高官から同じ説明を聞かされたという。よくよく背景を探ってみると、人工衛星「光明星1号」の打ち上げという当時の北朝鮮の説明をクリントン政権が事実上認めたのは、どうやら「米朝枠組み合意」(1994年)を守るためだったようだと書いている。高度に政治的なものだったというのだ。もし、そうだとすると、防衛庁は釈迦に説法ということになる。人工衛星ではないことぐらい重々承知していたのだ。それでも、素知らぬ顔で北朝鮮の言うように「人工衛星」であると、しらをきったということになる。

 で、今回はとなるわけだが、今回も、3週間も前に、デニス・ブレア米国家情報長官が(DNI)が上院軍事委員会で、人工衛星打ち上げとの北朝鮮の発表について「その意図だと信じる」と明言したというのだ。そういえば、ほかの高官の発言も、ミサイルだと言う人もいれば、衛星だという高官もいる。なぜだろうか。情報は確実につかんでいる。しかし、それをそのまま言えない状況があるというのが、春名さんの「読み」なのだ。つまり、オバマ政権の対北朝鮮政策がいまだ固まっていないからだという。それによって正確につかんでいるはずの情報の使い方が異なってくるのだ。「米政府・軍幹部の発言がぶれ、統一した見解が出せないのはそのためだ」と書いている。

 とすれば、事実がどうであれ、今の段階では、政治的には米国が人工衛星「光明星2号」と判断する可能性は高いことになる。これまで、日本政府は、ミサイルだ、ミサイルだと一本調子で無邪気に騒いでいる。しかし、米政府の政策が固まっていない以上、打ち上げ後に備えて、どう転んでも政治的な発言ができるように準備しておかないと、国際的には孤立する。事実、春名さんもコラムの最後で「米国が人工衛星『光明星2号』と判断すれば、強硬派は日本だけで、取り残されることになる」と指摘している。

 さて、そこで注目される小さなニュースを見つけた。4月3日付日経新聞夕刊総合面「ダイジェスト」欄である。隅っこの、それもわずか8行足らずの記事である。短いので全文以下にそのまま引用する。

 「ワシントン=弟子丸幸子 ウッド米国務省報道官代行は二日の記者会見で、北朝鮮が『人工衛星の打ち上げ』を通報し、準備を進めている問題を巡り、米朝間の"接触"は「先週」が最後だったと明らかにした。『北朝鮮は核問題を巡る六カ国協議の枠組みに戻ってもらいたい』と強調。ミサイルを発射した場合も六カ国協議の早期再開を目指す方針を示した。」 

とすれば、この点を重視するならば、米国は、打ち上げの事実がどうであれ、北朝鮮を刺激しないために、北が言うとおり「人工衛星説」をとることになる。

 この点を裏付けるような発言が、4月5日に放送された日曜討論(NHK)で、クリントン政権で北朝鮮問題を担当し、北朝鮮で生活経験もあるケネス・キノネス氏(国際教養大(秋田県)教授)からなされている。オバマ政権の北朝鮮問題解決の優先順位は低い。アフガン問題、イラク・イラン問題が最重要課題。オバマ政権としては北朝鮮問題に関して関心が薄く、あまり北朝鮮を刺激したくない。冷静に対応したいとしていた。すなわち、北朝鮮がそう言うなら、「人工衛星」だろうという寛大というか、正確な情報の把握はするものの、それとは別に政治的な面では冷静な対応になる可能性は高い。

 正確な情報を収集することは大事だ。正確な情報に基づいて国益を守ることはもっと大事なのである。情報はそのために使うものだというわけだ。国益がぶつかり合う国際政治はかくも非情なのだ。

  こう考えると、一部130円の日刊ゲンダイは安かった。 2009.04.03 

 この春名説に対して、早くも興味ある記事が、ロケット発射後の4月8日付静岡新聞夕刊一面トップに出ている。

 対北朝鮮決議/日本、中国と全面対立/安保理 米同調せず孤立か

 記事によると「五日から始まった協議で、米国は米国債の最大保有国である中国に強い態度で臨めず、日米で共同歩調が取れていないという。日本が孤立する可能性も出てきた」。事を構えると中国は米国債を売却するかもしれないということで遠慮するというならば、日本も中国に負けないぐらい米国債を保有している。なぜ、米国は日本に肩入れしないで、中国に遠慮するのだろうか、と言いたくなる。それとも、日本なら、どうともなると見くびっているのだろうか。それどころか「中国は(中国が議長を務める)北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議に悪影響を与えかねない決議は容認できない」というのだ。せいぜいのところが、米国は北朝鮮をできるだけ刺激しない「議長声明」でお茶を濁す算段のようだ。下手をすると、それすらもまとまらず、公式記録には残らない「報道機関向け声明」というほとんど意味のない決着になる公算もあるというのだから、国際政治は非情だ。2009.04.08

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