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「被爆国日本」のうさんくささ 次期IAEA事務局長選挙の非情

  国益がぶつかり合う国際政治がこれほど冷厳で、非情だとは思わなかった。国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長を決めるさきほどの選挙で、日本政府の推す天野之弥(ゆきや)ウィーン国際機関代表部大使が当選できなかった「事件」はショックだった。初めて日本人が「核の番人」のトップになれる可能性が高かったからだ。当選には、IAEA理事国35カ国の三分の二、24票に3票足りない21票だったという。一騎打ちとなった相手は南アフリカのIAEA担当大使。

 天野氏は、立候補演説で「広島、長崎への原爆投下を経験した唯一の被爆国日本」をアピールした。しかし、このことが、国益のぶつかり合う理事国の中から造反を招いたとの観測が流れたという。確かに、南アといえば、核開発を国際世論におされて放棄した国として、国際的にも評価は高い。しかし、それにしても、もはや「世界唯一の被爆国」という「金看板」は色あせ、ただ、ただ、無邪気に核廃絶を叫ぶだけの国というむしろマイナスイメージとなっているように感じざるを得ない。こんな国に「核の番人」を任せたら何をしでかすか分からないという認識を、核保有国も、非核保有国も持ったのだろう。何回選挙を繰り返しても、いいところまでは行くものの、当選までに2、3票足りないというのは、日本のメンツ、あるいは天野氏のメンツを保ちながらも、決して日本人を事務局長にしてはならないという国際政治の力学を示したともいえそうだ。

 日本人が、核拡散防止条約(NPT)の国際機関の事務局長になれない理由とは何だろうか。はっきりした自分の信念の下に意見を言うことができないのではないかという立候補者の個人的な資質に対する疑念。日本政府の指示通りにしか行動できないのではないかという不安。これでは国際機関のトップは務まらない。ましてや、アメリカの言い分に「イエス」としか言えない国に国際機関のトップは任せられないという心配。などなどが考えられる。

 さらに大きな理由として、具体的に言えば、NPTを強化したい先進国と、核を平和利用したい途上国の対立構図の中で、被爆国日本はどうしたいのかという具体的なビジョンがなかったからではないか。同時に、今月初めのプラハ(チェコ)でオバマ米大統領は「米国には核兵器を使用した唯一の国としての道義的な責任がある」と演説した。これまでの大統領とは明らかに異なる歴史的と言ってもいい認識を世界に示した。日本はこうした新しい世界の潮流を理解しているのだろうか、という理事国の冷徹な目が、日本人事務局長選出を「拒んだ」大きな理由ではないか。日本の外交音痴を不安視したのだ。北朝鮮にばかり目を奪われているようでは、たまらないという理事国のしたたかな計算を読めないようでは国際機関のトップにはなれないということなのだろう。

 やり直し選挙が5月下旬か6月にも行われるという。再び天野氏を立てる日本にとって、情勢は今回以上に厳しいと見るべきであろう。

 明確で具体的な自分のビジョンを持って、はっきり日本政府にも物が言える。そして、国益がぶつかり合う国際政治の中で、果敢に行動する。そんな緒方貞子元国連難民高等弁務官のような人物しか国際機関のトップにはなれない。緒方さんの場合、国際政治学者としてビジョンを持っていた。日本政府に対してもアメリカ政府に対してもはっきり注文を付けることができるだけの識見と行動力があった。官僚の天野氏にこれがあるかどうか、試されている。国際政治では、謙譲は美徳ではなく、悪徳でさえある。そんなことを思い知らされた今回の事務局長選挙の結果だった。

 加えて、被爆国日本にとって、当選への道は、被爆国であるがゆえに、むしろ遠いだろう。2009.04.30

 

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