« 新聞の写真  人には聞けない話   | トップページ | 勝因は「運」  W杯サッカーアジア最終予選 »

覚悟 失うと分かったものしか愛せない

 日ごろは、ほとんど週刊誌は買わない。しかし、たまには気まぐれで身銭を切って、週刊誌を買うことがある。興味がある記事が出ているからという理由ではない。通勤している浜松-静岡の新幹線の時間つぶし(20分)のためである。だから、大見出しの記事は読まずに、広告、べた記事を何気なく読む。そして、誰もが見過ごしてしまいそうな、しかし、面白い小さな記事を見つけたときにはうれしくなる。ビリビリとその部分を破り取り、ポケットにしまう。これで「コラムが書けた」と思うと得をした気分になるのだ。それはまた20分間でそんな記事を必ず見つけ出す訓練となり、社会を見る目、感覚を養い、磨くことにもつながる。

 そんなつもりで、『週刊新潮』4月2日号春季特大号 特別定価350円

を買って見た。残念ながら、そんな記事は見つからず、駅に着いたら捨てようと思っていた矢先、美しいカラー見開き広告を見つけた。こうだ。

 「覚悟」である。五木寛之 人間の覚悟 新潮新書

 自社広告にろくなものはない、という先入観から、はなから無視していた。売れているそうである。32万部突破と赤文字で大きく刷られている。もちろん、ウソだろう。それはともかく、この広告には、買ってもらうために、十九のポイントを一文=十五文字で列挙している。詳しくは、本書を買ってくださいというわけだ。しかし、私は買うつもりはなく、これらを分析し、自分なりに以下のように考えてみた。車内20分間の訓練である。

 ○ 国は最後まで国民を守りはしない。これは著者、五木さんが終戦時大陸から引き  上げて来た時に、多感な少年として道すがら見てきた悲惨極まる体験からの覚悟であろう。「飢えた大人ほど恐ろしいものはない」。これが五木さんの偽らざる原体験だ。ここから出た言葉、覚悟だけに重い言葉だ。

 ○ 統計や数字より自分の感覚が大切。作家としては当然の覚悟だが、科学ジャーナリストにとっても、平均値からは生きた実像は見えてこないと覚悟すべきであるという意味で、正しい覚悟だろう。

 ○ 人生からは決して鬱は取り去れない。鬱とは、晴ればれとしない状態、あるいは、気のふさぐことという意味である。そう覚悟を決めれば、うつ病も少しは減るかもしれない。

 ○ 「夢」の多くはむくわれないもの。妖怪漫画家の水木しげる氏は、「努力は人を裏切ると心得よ」と言っていることに通じる。五木さんの場合も、『TARIKI(他力)』 としてわざわざ一流の翻訳家に英訳させて、ノーベル文学賞を意識して、コロンビア大学でお披露目をしたが、その夢は簡単ではないだろう。努力は五木さんを裏切るだろう。

 ○ 信じる、疑う、両方を握り締める。信じることから始まる宗教、疑うことから始まる科学。社会はこの二つから成り立っていると喝破した五木さんの眼力はさすがである。

 ○ 善行も、愛も多くはむくわれない。報われなくても後悔しないから、善行であり、愛なのだろう。見返りのある善行、見返りのある愛があまりに今の世には多すぎる。

 ○ 失うと分かったものしか愛せない。二兎どころか三兎も四兎も追わなければ一兎をも覚束ないと説く近著『欲情の作法』(幻冬舎)の作家、渡辺淳一も脱帽の覚悟である。この伝で言えば、漫才タレント、陣内智則が、女優の藤原紀香とスピード離婚したのも、まさにこれだ。陣内は、自分の浮気により、失うと分かっていたからこそ、紀香を愛したのだという屁理屈になる。愛するためには、浮気をしなければならないというわけだ。愛はかくも不可思議なものなのかもしれない。この覚悟は、不倫道の覚悟だと言えるだろう。失うと分かったものしか愛せないのだから。ただ、渡辺淳一の小説の場合、不倫道とは、二人で死ぬことと見つけたり、というパターンであり、このところが、五木さんの不倫道の覚悟とは異なる。

 本を買わなくなってしまわないように、これくらいにしておく。広告には、「ここにある『覚悟』のどれかひとつを胸に、一日を過ごしてください」となっている。 

 私の覚悟は、定価714円(税込)のこの本を買わないというものだ。なぜか。『風に吹かれて』の悩み多き五木寛之は、もはやここにはないからだ。そして、後期高齢者の仲間入りをし、今年「喜寿」を迎えた著者の安住の姿がこの本にはあるからだ。私には、失ってしまったものは、愛せない。2009.03.28

 

|

« 新聞の写真  人には聞けない話   | トップページ | 勝因は「運」  W杯サッカーアジア最終予選 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/44490500

この記事へのトラックバック一覧です: 覚悟 失うと分かったものしか愛せない:

« 新聞の写真  人には聞けない話   | トップページ | 勝因は「運」  W杯サッカーアジア最終予選 »