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盗作医学論文 浜の真砂は尽きるとも

 石川五右衛門の言い方ではないが、浜の真砂が尽きるとも、医学論文の盗作の尽きることはあるまじ、という感じだ。3月6日付朝日新聞の囲み記事に

 盗作医学論文 212本? /データベース検索、著者らに指摘/米チーム

 という見出しで、次のように伝えている。チームは、米国立医学図書館が運営する医学・生命科学の論文データベースを対象に独自に開発したプログラムを使って、盗作が疑われる表現の相似性を調べた。そのうち、著者が異なっていて、盗作が疑われる論文を約9000本を抽出したという。これを基に、実際に論文を読んで、疑われる部分を照らし合わせ、「盗作の可能性がある」と判断されたのは、212本だった。盗作された側は「こんな露骨な盗作は初めて」など厳しい反応が多かったという。一方、「盗作」側は、「データ借用の許可を取らなかったことは謝罪したい」という釈明が目立ったという。こうした電子メールアンケートをきっかけに、掲載誌の編集者による内部調査が行われ、その結果、実際に論文が取り下げられたのは、内部調査を行った83本の論文のうち、約半数の46本だったという。残り半数は、何の対応もとられなかったと記事は伝えている。

 内部調査したのに何の対応も取らなかったということは、問題なしとして無罪であったのか。であれば、盗作と疑われた著者は、疑われたことに対する名誉回復のために、何らかの抗議を論文誌に対して必ずするはずだが、それもなかったということは、盗作したことを事実上認めたことに相当する。著者あるいは編集者がうやむやにして「ほおかぶり」したとしか考えられない。

 こうしたことを考えると、盗作の可能性が疑われた212本のほとんどは、実際にも盗作であると考えられる。盗作論文に比べて、医学分野のでっち上げ、すなわち捏造論文を見つけ出すのは、内部告発があった場合や、明らかに不自然なデータが掲載されていない限り、困難だ。医学分野では、高度の技術を必要とすればするほど、再現実験が難しいからであり、再現性がないからといって、直ちにこれを捏造と断定できないからだ。捏造論文がなぜまかり通るのか、という問題意識で書かれた、あるいはドキュメント映像放送された最近のものに、

『論文捏造』(村松秀、中公新書ラクレ)/『国家を騙した科学者』(李成柱、牧野出版)

がある。前者は最先端の機器が必要な超伝導の物理学論文での捏造を扱ったものである。最先端機器によるデータ収集には再現性がなくても、さまざまなノウハウがあって初めて得られることから直ちに捏造と見なすことが困難なこと、後者は医学論文であり、そもそも再現性が必ずしも万全ではないという事情があることから、内部告発から不正が発覚したことをそれぞれ丁寧にあぶりだしている。

 これに対し、盗作論文については、今回のような手法で発見が可能であることを具体的に示した意義は大きい。盗作の誘惑を抑止する効果があるからだ。

 そもそも、論文の盗作や捏造がなぜ起きるのか。こうした不正は、実力のある大学ほど多いのはなぜか。日本でも東大や大阪大で起きている。競争が激しく、次々と、研究資金を集めて、実験したり、調査したりして論文を書かないと、研究者として、研究社会に生き残れないからだ。

 こうした背景を受けて、最近、

『研究資金獲得法』(塩満典子/室伏きみ子、丸善)

という重宝な本が出版されている。政府の競争的研究資金だけでも約4800億円である。自治体など、あるいは企業などの分も入れると、軽く、5000億円は超えるであろう。この本では、申請の仕方、獲得しやすくするためのノウハウなども掲載されている。研究者には便利なハンドブックであろう。こうした本を活用することで、論文捏造や論文盗作に対する誘惑がいくらかでもなくし、健全な研究社会を維持したいものである。 2009.03.13

 

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