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ドラマ「黒部の太陽」 背中で演技の香取慎吾親方

 なんのかんの言っても、テレビというのは、やっぱり、ドラマ、ドラマがよくならなければ、話にならない。そんな当たり前のことを思い知らされたのが、香取慎吾主演の

 黒部の太陽(フジテレビ系=テレビ静岡)前編

である。3月21日夜、その前編を見てそう感じた。新聞の記事、文章では、いくらがんばっても、この迫力は出せない。テレビは結局、ドラマが勝負である。下請けのトンネル屋、香取慎吾親方の凄みのある演技が光っている。部下を大事にする。部下と生死をともにする。そのことによって、難事業を工期に間に合わせる。これまでの経験を尊重する。人間を「犠牲」という美名で、人の死を、部下の死をないがしろにしない。これが日本の企業のモラルであった。それはかつて日本には厳然としてあったのだ。昭和三十年代には。それがいつの間にか、なくなってしまった。そこに、今の日本の経済の行き詰まりがあるのではないか、ドラマはそんなことを語りかけようとしているのではないか。明日の後編が楽しみである。

 ところで、このドラマが進行している裏番組で、NHKが「日本の、これから/どうなってしまう? テレビのこれから/最近のテレビはつまらない?/インターネットがあればいい?/視聴者の本音爆発・民放看板番組制作者とNHKのスタジオで討論」

 というやわな番組をやっていたが、ばかばかしくて見ていられなかった。そんな討論をする暇があったら、「黒部の太陽」を見よ、と言いたい。討論して何になる。

 物語そのものは、すでによく知られているように、北アルプスの赤沢岳の真下に黒四ダム建設用の資材を運び込むトンネルを掘りぬくという単純な物語であり、そこにそこで働く人々の愛と生き様をからませているだけのものである。 貧しくとも、誠実に生きる人々の姿は、今はもはやなくなってしまったことを強く印象付けているドラマだ。

 金がすべてという社会、国家のため、社会のためという欺瞞はもういい加減にすべきではないのか。もっと、人間個人を大事にする社会に戻るべきではないのか。ドラマは静かに視聴者に語りかけているように思う。

香取慎吾の演技について、最後に付言すると、慎吾氏自身はどんな思いで、自分のこれまでのイメージとはかなり違う親方役を演じようとしたのだろうかと考えてしまう。慎吾氏が、3月22日付朝日新聞のインタビュー「ズームアップ」(週間TVナビ)で、不屈の精神で難工事に当たる「男を感じさせるのは、背中だ」と気づいて

 背中で演技、勝負した

と語っている。あるいは、それが慎吾の親方役を光らせているのかもしれないと感じた。

 なお、この「黒部の太陽」は木本正次の『黒部の太陽』(毎日新聞連載)が原作。映画化は、三船プロ+石原プロ製作で1968年になされている。慎吾も、このことを十分意識して演技をしていたらしい。40年ぶりのドラマ化である。また、戦前に建設された「黒三ダム」についての小説化については、有名な吉村昭『高熱隋道』が知られている。黒三ダムにかかわった人たちが、戦後のこの黒四ダムづくりにも深くかかわっていたことが、今回のドラマでも少し分かった。関西電力+熊谷組による建設であった。

  後編のラストシーンが印象的である。慎吾親方が、黒四ダムを見下ろしながら

自分に言い聞かせるように、

 「人間の心、意志の力は、自然の力に引けを取らない」

 トンネル屋の意気地だろう。

 

 「黒部の太陽」の次の番組は、よく意味の分からない

 帰ってこさせられた「33分探偵」

をやっていた。あまりよく分からない番組だが、ともかく、5分で片付く推理ドラマを、33分持たせるコメディ・ドラマ。なんとなく、見てしまった。言ってみれば昨年NHKで放送された「サラリーマンNEO」の子ども版という感じで、なかなか面白く、高度なテクニックを駆使していて、つい、これも見てしまった。あえて、ほめるとすれば、ソフィスティケイトされたドラマであり、相当の教養がないと見ていられないコメディだ。最近は、夜の番組に目が話せない。どの局も、実験的で野心的な、あるいは解放区という感じの出し物を競っているようである。2009.03.21

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